第47話 森の奥にあるもの

 私とクラーナは、依頼のために近くの森を訪れていた。

 そこで、クラーナが同族の匂いを感じ取り、私達はそれを追跡したのである。

 その結果、辿り着いたのは、森の奥にある葉っぱに隠れた崖のような場所であった。


「アノン、あそこに村があるみたいね」

「うん……」


 私達は今、崖の上に立っている。

 そこから、村のようなものが見えるのだ。


 森の奥にある村など、とても怪しいが、一体なんなのだろう。


「ところで、クラーナ。匂いは、どうなっているの?」

「……さっきまでの匂いは消えたわ。だけど、ここに入ってから、別の匂いがするの……」

「別の匂い?」


 どうやら、ここまでクラーナが感じてきた匂いは、消えてしまったようだ。

 しかし、その代わりの匂いがあったようである。


「ええ、そこら中から、同類の匂いがするの……もう、個々の判別は難しいわ」


 それは、違う同族の匂いのようだ。

 しかも、そこら中からしているらしい。


「そこら中から? ということは、犬の獣人がいっぱいいるってこと?」

「多分、そうなると思うわ……」


 つまり、ここにはたくさんの犬の獣人がいるということだ。

 一体、ここはなんなのか。私もクラーナも、その予想がまったくできないのである。


「……村に行ってみる? ここまで来て、何も知らないまま帰る訳にも、いかないよね?」

「……ええ、そうしましょうか」


 私の提案に、クラーナが賛成してくれた。

 という訳で、村へ向かうことにする。


「あそこから、進めそうね」

「うん、行こう」


 幸いにも、崖からは整備された道が伸びていた。

 私達は、そこに向かって足を進める。


「整備された道があるということは、ここには誰かがいるということね」

「うん……それって多分……」

「犬の獣人……ね」


 整備された道に沿って、私達はどんどんと進んで行く。





◇◇◇




 私とクラーナは、しばらく歩き続けていた。

 坂を下り、平地に下りても道は続いており、中々長い道のりのようだ。

 しかし、私達は町を目指し、歩みを進めていたのだった。


「……っ! アノン!」

「クラーナ、どうし……はっ!」


 そこで、クラーナが急に声をあげる。

 少し、遅れて私もあることに気づいた。


 周囲に何かの気配がするのだ。

 それは、複数の気配である。


「動くな!」


 次の瞬間、前方から何人もの人影が現れた。

 その姿を認識し、私は驚く。


「人間……!」

「仲間も一緒だ!?」

「ガルル……!」


 それは、犬の獣人達だった。

 手には、弓を構えており、それをこちらに向けてきている。

 明らかに、敵意のある様子だ。


「これって……!?」

「アノン、私の後ろに!?」


 その光景に驚いていると、クラーナが私を庇うように前に出ていた。

 そこで、初めてわかったが、犬の獣人達が弓を向けていたのは、私達ではなく、私だけだったようである。


「お前、離れろ!」

「そいつが狙えないだろ!」


 なぜなら、クラーナが前に出た途端、獣人達はそんなことを言い始めたからだ。

 獣人達の狙いは、あくまで人間の私であり、仲間のクラーナではないということだろう。


「離れる気なんて……ないわ!」

「何を言っているんだ!? そいつは人間なんだぞ!?」

「もしかして、洗脳されているのか!?」


 クラーナは獣人達に対して、強きに言い放っていた。

 しかし、雰囲気としてはあまりよくなさそうだ。


「こっちの方が数は多いんだ。仲間を取り押さえて、人間をやろう!」

「そうだ! それが、いい!」


 獣人達は、興奮状態であり、こちらの話を聞いてくれそうもない。

 このままでは、クラーナまで傷つけてしまいそうだ。


「クラーナ、退いて……」

「アノン!? 何を言っているの!?」

「狙いは私みたいだから……クラーナは一度、あっち側に行った方がいいよ。私はなんとか、逃げるから……」


 そのため、私はそうクラーナに耳打ちする。

 このままでは、クラーナは取り押さえられ、私は矢を浴びることになってしまう。それだけは、避けたいことだった。


 それなら、クラーナには一度向こう側に行ってもらい、私が全速力で逃げる方がいい気がするのだ。

 そうすれば、クラーナは傷つかないし、もしかしたら説得できる可能性もある。


 どちらにせよ私に矢が降り注ぐなら、クラーナが傷つかない方がいい。


「……嫌よ」

「クラーナ?」

「あっち側に行くなんて、絶対に嫌よ。アノンを置いていくくらいなら、矢に貫かれた方がましよ!」


 だが、クラーナは私の提案を受け入れてくれなかった。

 それは、とても嬉しい言葉である。しかし、それでは、困ってしまう。


「もういい、さっさとやろうぜ!」

「そうだ! 仲間を助けて、人間をやるんだ!」


 犬の獣人たちは、じりじりとこちらに近づいてきている。

 このままだと、まずい。


「待てい!」


 私が、そう思った時だった。

 辺りに、大きな声が響く。


「ちょ、長老様……」

「どうして、こちらに……」


 獣人達の後ろから、老人が歩いて来ていた。

 どうやら、声の主は、あの女性らしい。

 彼女も、同じく犬の獣人である。


「この者達を見てわからんか! そちらの人間は、わし等に危害を加えるような者ではない!」

「し、しかし……」

「黙れい! お前達はしばらく、頭を冷やしてこい!」

「は、はい……」


 長老と呼ばれた女性の言葉で、私達の前にいた獣人達は後退していく。

 大分、影響力のある女性のようだ。


 とりあえず、私とクラーナの危機は去ったようだった。

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