第46話 依頼に行って

 私とクラーナは、ギルドにて依頼を受けた後、最寄りの森に来ていた。

 もちろん、受けたのは、魔物退治の依頼である。


「アノン、そっちは?」

「問題ないよ、大丈夫」


 私達は、周囲を警戒しつつ、森の中を進んで行く。

 魔物がいる所に行く時は、そうするのが基本である。


「……なんだか、心強いわね」


 そこで、クラーナがそんなことを呟く。


「え?」

「一人より二人の方が、いいということよ」

「ああ、なるほど……」


 一瞬疑問に思った私だったが、クラーナの言いたいことはすぐに理解できた。

 クラーナは、今まで一人で依頼をしてきたのである。そのため、一人増えただけでも、その負担はかなり軽減されるはずだ。

 だから、クラーナにとって、私の存在は心強く思えるのだろう。考えてみれば、当然のことだった。


「言っておくけど、アノンだからよ?」

「え?」

「誰でも、心強かったという訳ではないわ。あなただから、安心できるし頼れるのよ?」


 私がそんな考え方をしていると、クラーナがそんなことを言ってくれる。

 まるで、私の心を読んだかのような言葉だ。でも、そう言ってもらえるのは、とても嬉しい。


「ありがとう、クラーナ」

「べ、別にお礼を言われるようなことではないけど……」


 私がお礼を言うと、クラーナは少し照れる。

 こういうのも、クラーナのかわいいところだ。


「あら?」


 そんな話をしながら、森の中を進んで行っていた時だった。

 クラーナが、少し警戒したような声をあげたのだ。


「クラーナ? どうしたの?」

「……少し奇妙な匂いがするのよ」

「奇妙な匂い?」


 クラーナは、犬の獣人であるため、匂いには敏感である。

 そのクラーナが、奇妙な匂いがするということは、問題があったということだ。

 私は、周囲への警戒心を強めていく。


「一体、なんの匂い?」

「この匂い、同類の匂いだと思うわ……」

「同類? それって、獣人ってこと?」

「ええ、正確には、犬の獣人ね……」


 どうやら、クラーナの感じた匂いとは、同類の匂いであるようだ。

 つまり、犬の獣人が近くにいるということである。


「どこにいるか、わかる?」

「それが、わからないのよ。ただ、漠然とそういう匂いを感じるだけで、真実が掴めない。そんな感じなのよ」


 クラーナも、その匂いの全貌を掴めていないらしい。

 これは、少し気になることだ。


「探してみようか?」


 私は、クラーナにそう問いかける。

 仲間の匂いがしていて、それがわからないものだというのは、心配なはずだ。

 それなら、探した方がいいと思ってしまったのである。


「でも、依頼があるわ……あまり、確信がないことだし」

「依頼なら、しばらく猶予があるし、こっちの方を優先した方がいいよ。何があるか、わからないし……」

「……そうね、それなら、探させてもらうわ」

「うん、行こう」


 私の提案を、クラーナは受け入れてくれた。


 という訳で、私達は探索を始める。

 頼りになるのは、クラーナが感じている匂いだ。


「こっちよ」

「うん」


 クラーナに手を握られて、複雑な道筋で、森の奥へと進んで行く。


「こんな奥の方なの?」

「ええ、なんだか、よくわからない道筋なのよ」


 そのまま、奥へ奥へと進んで行き、元の道筋などわからないような所に来ていた。

 こんな所から、匂いがするなんて、一体どういうことなのだろうか。


「アノン、ここよ。ここから、匂いがするわ」

「ここ?」


 しばらくして、クラーナが立ち止まった。

 そこは、葉のようなものによって覆われている場所の前である。

 匂いは、その中からしているらしい。


「この中に、何かあるの? なんか、葉っぱの塊みたいなものだけど……」

「ええ、少し探ってみるわ」

「ク、クラーナ!? 危ないよ!?」


 私が色々と、考えていると、クラーナが葉っぱに手を伸ばす。

 急なことに、止める暇もなかった。


「え?」

「クラーナ!?」


 そこで、クラーナが声をあげた。

 それと同時に、クラーナの体が引っ張られたのである。

 手を繋いでいたため、私の体も引っ張られていく。


「え?」

「あれ?」


 次の瞬間、私達は同時に声をあげていた。

 なぜなら、開けた場所に出ていたからだ。


 目の前には崖があり、眼下には村のようなものが広がっている。


 森の奥だったはずなのに、それはあり得ないはずだ。


「これは、一体……」

「どういうこと?」


 私達は、突然のことに困惑することしかできなかった。

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