第41話 料理の手伝いをして

 私とクラーナは、お互いに大切な人だと打ち明けた後、しばらく抱き合っていた。

 すると、クラーナがゆっくりと口を開く。


「アノン、そろそろ夕食の準備をしなくちゃいけないわ……」

「あ、そっか……」


 そういえば、もう夕食の時間も近かった。


 私は、クラーナから体を離す。


「それじゃあ、用意するから、少し待って……」

「あ、私も手伝うよ。手も治ったんだし、そうしたいって、思っていたんだ」

「あら? そうなの」


 私はクラーナに、手伝いを申し出た。

 今までは、クラーナに食事は全て作ってもらっていたが、それでは駄目だと思っていたのだ。

 本当は、もっと早く言うべきだったのだが、色々とタイミングがなく、今となってしまった。


「それなら、手伝ってもらおうかしら」

「うん、任せて!」


 こうして、私はクラーナと夕食を作ることになったのだ。




◇◇◇




「……ごめんなさい」


 料理中、私はクラーナに謝罪していた。

 私の前には、歪な形の破片となった野菜が、並んでいる。


 私はクラーナに、野菜を切るよう言われた。

 そんなことは、ほとんどやってきていないのだが、私はそれくらいできるだろうと、引き受けてしまったのだ。


 その結果がこれである。

 そのため、クラーナに謝ったのだ。


「アノン、大丈夫よ。それくらいで、怒ったりしないわ」

「ク、クラーナ……」

「別に、形で味が決まる訳じゃないもの。だから、安心しなさい」


 しかし、クラーナは怒っていないようだった。

 やはり、クラーナはとても優しい。


「それに、苦手だからといってやらなければ、いつまでも上達しないわ。今日は練習だと思って、やってみましょう」

「うん、ありがとう」


 クラーナは、そんなことまで考えてくれているようだ。

 その優しさが、身に染みてくる。

 その言葉のおかげで、頑張って野菜を切ってみようと思えてきた。


「でも、まずは教えてあげないと駄目よね。ちょっと後ろにつくわよ」

「あ、うん……」 


 クラーナはそう言って、私の後ろに回る。

 そして、その身をくっつけてきた。


 恐らく、どういう風にするか、身をもって教えてくれるのだろう。


 だが、私はそれどころではなかった。

 私の背中には、クラーナの胸が当たっている。その柔らかさに、私は動揺してしまっているのだ。

 この感触は何度か味わったことがあるが、それでもすごい。


「アノン? どうしたの?」

「あ、いや、なんでもないよ」

「そう? なら、いいけど……」


 しかし、それをクラーナに悟られるのはまずい気がするので、誤魔化すことにした。

 クラーナは、少し疑問に思ったようだが、流してくれたようだ。


「それじゃあ、切るわね」

「うん、お願い……」


 クラーナは私の手を案内し、野菜の元へと運んでいく。

 そして、ゆっくりと野菜の切り方を指導してくれる。


「いい? こういう風に切るのよ」

「う、うん……」


 クラーナのおかげで、野菜は綺麗に切れていった。


 だが、そこで私の体に変化が起こる。

 何故だが、無性に目が痛いのだ。


「うっ……」

「アノン?」


 私の目から、涙が溢れ出す。

 目が痛くて、思わず涙が出たのだ。


「あ!」


 クラーナは、何かに気づいたように声をあげる。

 そこで、私も気づいた。私が切っていたのは、タマネギだ。これは、切ったら涙が出ることで有名である。


 クラーナのおっぱいに気をとられて、野菜の種類に気づいていなかった。


「ごめんなさい、忘れていたわ……タマネギは、駄目だったわね。私は、たまたま大丈夫だったけど……」

「うう……別に、いいよ」


 どうやら、クラーナは忘れており、たまたま目に影響が出なかったようだ。まだ切り始めたばかりなので、それもおかしくはないのかもしれない。


 とにかく、涙を拭わなければならなかった。しかし、それを実行する前に、クラーナが口を開く。


「アノン、ちょっとじっとしていてね」

「え?」

「ペロ……」

「ええ!?」


 クラーナは、私の涙を舐め始めたのだ。

 私の涙は、クラーナによって綺麗に舐めとられていく。


「しょっぱいわね……」

「あ、あう……」


 なんだか、とても恥ずかしい。

 でも、これで涙を拭わなくてもよくなったので、一応お礼を言った方がいいだろう。


「ついで」

「ん!?」


 私がそう思っていると、唇を塞がれる。

 クラーナが、キスしてきたのだ。

 いきなりのことに、私はかなり驚いた。


 私の口の中に、クラーナが侵入していき、入念にその中を味わわれる。

 もう、色々いっぱいいっぱいだ。


「料理中だから、これくらいにしておくわ」

「ああ……」

「さ、料理を続けましょう」


 動揺している私を余所に、クラーナは料理を再開する。

 私は、しばらく硬直することしかできないのだった。

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