第40話 膝枕をしてもらって

 私は、クラーナに膝枕をしてあげた。

 そのお礼として、今度は私が膝枕をしてもらうことになったのだ。


「い、いくよ……」

「ええ、遠慮しないで」


 私は、クラーナの膝にゆっくりと頭を乗せる。


「あっ……」


 そこで私は、思わず声をあげてしまう。


 クラーナの膝は柔らかく、温かい。

 それだけのことが、私の鼓動を早くしていく。


 恥ずかしさと幸せな気持ちが合わさって、私は激しく動揺するのだった。


「アノン……?」


 そんな私に、クラーナが声をかけてくれる。

 心配そうに、私を見つめてくれるのだ。

 やはり、クラーナはとても優しい。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫……」


 その優しさのおかげで、私の幸せは大きくなっていく。


「それなら、よかったわ。それで、どうかしら?」

「うん、とっても気持ちいいよ……」


 クラーナは少し顔を赤くしながら、私に問い掛けてきた。


 クラーナの膝は、最高の寝心地だ。そのため、私はそう答えた。

 すると、クラーナは笑ってくれる。


「それは、ありがとう」

「……お礼を言うのは、こっちだよ。ありがとう、クラーナ」


 私達は、お互いにお礼を言い合う。

 なんだか、おかしな感じだ。


「あ、そうだ。私も、アノンに返さないとね」

「え? 返す?」

「ええ」

「あっ……」


 そこで、クラーナは私の頭を撫でてくる。

 お返しとは、こういうことらしい。


「あう……」


 今まで、私は人に撫でられたことなどなかった。

 正確にはわからないが、少なくとも記憶には残っていない。


 そのため、私を撫でてくれたのは、クラーナが初めてだ。


「どうかしら?」

「なんというか、気持ちいい……かな?」


 それは、とても気持ちいいというものだった。

 それに、なんだか安心できる。

 クラーナが、これを好きなのもわかる気がした。


「人に撫でられるなんて、初めてだけど、こんな感じなんだね……」

「……」

「あれ? クラーナ?」


 私が何気なく放った一言に、クラーナが手を止める。

 何か、気に障ることでも言ってしまったのだろうか。


「私も、初めてよ……」

「え?」


 私が困惑していると、クラーナがそう呟く。

 恐らく、誰かに撫でられるのが初めてということだろう。

 それは、なんだか嬉しい。


「アノンが初めてなの……こんな風に誰かに甘えたり、触れ合ったりするのは……」

「クラーナ……」

「アノンは、私にとって、とても大切な人……」


 クラーナは、さらに言葉をかけてくれる。

 その言葉は、とても嬉しいことだ。感動して、涙が出そうになってくる。


「私も、クラーナのことが大切だよ」

「アノン……」


 次は、私の番だった。大切だという思いを、伝えるのは。


「これからも、ずっと一緒にいて欲しい……」

「ええ、当り前よ……」


 私は体を起こし、クラーナを抱きしめる。

 そして、これからも離れないことを誓うのだった。

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