第34話 それを嗅ぐのは待って欲しい

 私は、クラーナとともに、ギルドから借りている部屋に来ていた。

 ここから、引っ越すためである。


「ここが、アノンの暮らしていた所なのね……」

「うん」


 私達は、ギルドで色々手続きを行い、ここに来たのだ。


 パーティを組みたいと言ったら、少し怪訝な目で見られたが、手続きはスムーズに進行した。


 部屋については、明後日までに片付けておけばいいらしい。

 最も、私達は、今日中に終わらせるつもりだ。


「さて、それじゃあ、荷物をまとめましょうか?」

「うん、といっても、そんなに多くはないけどね」

「そうなのね」


 という訳で、荷物をまとめなければならない。

 とりあえず、私物はクラーナの家に持って行けばいいだろう。


「じゃあ、クラーナは、そっちの棚のものを詰めてくれる?」

「ええ、わかったわ」


 私は、適当な棚を指さし、クラーナにお願いする。

 持ってきた木箱に、荷物を入れて運ぶのだ。


「さて、この棚はと……」


 私は、棚を開けて中のものを木箱に詰めていく。

 クラーナも、反対側の棚で、作業してくれているだろう。

 しかし、私は何かを忘れている気がする。


「あっ!」


 そこで、思い出した。

 先程クラーナに頼んだ棚には、下着等も入っているのだ。

 流石に、それをクラーナに頼むのは恥ずかしい。


「クラーナ……え?」

「すー」


 クラーナを止めるために振り返った私は、目に入った光景に驚く。

 クラーナは、私の服や下着に鼻をつけ、匂いを嗅いでいるのだ。


「ク、クラーナ? 何やっているの……?」


 そのあまりの光景に、私は思わず声をあげていた。


「あっ……」


 私に見られたことで、クラーナは気まずそうに目を逸らす。

 一応、すごいことをしている自覚はあるようだ。

 ただ、流石にこれを放っておくことはできない。


「匂いを……嗅いでいたよね?」

「……ええ」

「ど、どうして……?」

「……」


 クラーナは、匂いを嗅いでいたことは認めた。

 しかし、その理由を聞くと、黙ってしまう。


「言えないことなの……?」

「その……」


 私の言葉に、クラーナは顔を赤くする。

 一体、どんな理由があったというのだろう。


「アノンの匂いがしたから、つい……」


 理由は、割と単純なものだった。

 私の匂いがしたから、つい匂ってしまったようだ。

 その理由は、嬉しいものだが、流石に下着は恥ずかしい。


「クラーナ、流石に下着はやめてくれないかな……?」

「それは……」


 私の言葉に、クラーナは残念そうにする。

 だが、そんな顔をされても、こちらの恥ずかしさは変わらない。


「ふ、服ならいいから……」


 とりあえず、私は譲歩することにした。

 服なら、まだ大丈夫だ。


「し、下着は駄目……?」


 しかし、クラーナは引き下がらなかった。

 服よりも、下着の方がいいらしい。

 その理由は、聞いたら何かまずい気がしたので、聞かないことにする。


「は、恥ずかしいし……」

「……それは、そうかもしれないわね」


 クラーナは、私の言葉に頷く。

 どうやら、理解はしているらしい。

 

 だが、顔はとても落ち込んでおり、残念そうだった。


 その顔を見ていると、なんだか折れそうになってくる。

 よく考えれば、直接、体の匂いは嗅がれているし、いいのかもしれない。


 いや、流石に下着は駄目か。


「ごめんなさい……冷静になったわ。流石に、下着は駄目よね」


 私が、そんな風に悩んでいると、クラーナがそう言ってきた。

 どうやら、理性を取り戻してくれたようだ。


「うん、ありがとう。私がそっちをやるから、クラーナはこっちをお願いできる?」

「ええ、その方がお互いにとって良さそうね……」


 とりあえず、私はクラーナと入れ替わるのだった。

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