第35話 匂いはどこまで?
私はクラーナとともに、ギルドから借りていた部屋から引っ越すための準備をしていた。
色々あったが、今は作業を再開できている。
「……ところで、クラーナの鼻って、どれくらいすごいの?」
「え?」
荷物を木箱に詰めながら、私はクラーナにそんな質問をしていた。
「いや、蒸し返すのもあれなんだけど、さっき私の服や下着の匂いを嗅いでいたよね?」
「え、ええ……」
「あれって、洗っているし、結構身に着けてないはずだけど、そんなに匂いがするのかなって、疑問に思って……」
これは、ただの疑問である。
犬の獣人が持つ鼻は、一体どれ程のものなのか、ずっと気になっていた。
いい機会だったので、ここでクラーナに聞いてみることにしたのだ。
「ええ、全然したわよ。アノンの匂いが、しっかり残っていたもの」
「へえ、そうなんだ」
「身に着けてなくても、多少匂いは残るものよ。一週間前に履いていたものなら、とても濃いわね」
「うん?」
私の質問に、クラ―ナは答えてくれた。
しかし、その発言は少し気になるものだ。
クラーナは今、一週間前に履いたと明言していた。
その答えは、なんとなく予想できるが、聞いてみることにしよう。
「ねえ、クラーナ? 匂いでどれくらい前に身に着けていたとか、わかるものなの?」
「正確な日付まではわからないけど、大体は予測できるわね。匂いの濃さが違うもの」
やはり、私の予想通り、匂いで判別できるようだ。
なんというか、それはとても恥ずかしいことではないだろうか。
私は、自分の顔が赤くなっていくのを自覚する。
「……あっ! いや、違うのよ」
クラーナが私の変化に気づき、そう言ってきた。
何が違うのだろうか。
「……」
案の定、クラーナは言葉に詰まる。
仮に先程の発言を取り繕っても、私の恥ずかしさは消えないだろう。
「ご、ごめんなさい……」
「い、いいよ、私が聞いたことだし……こっちこそ、変なこと聞いてごめん」
ただ、これは聞いた私が悪かった気がする。
そのため、クラーナが謝る必要はないはずだ。
これ以上、この話を続けてもお互いに利益はない。
早く切り上げて、作業に集中しよう。
「クラーナ、さ、作業を続けよ……」
「そ、そうね……」
こうして、私達は箱に詰める作業を再開するのだった。
◇◇◇
集中したことによって、作業は手際よく進んだ。
しばらくすると、部屋の棚などに入っていたものは、全て木箱に詰め終わっていた。
「これで、全部ね?」
「うん、ありがとう、クラーナ!」
作業の中で、すっかり冷静になったので、普通に話せるようにもなっている。
色々あったが、これで詰め込み作業は終了だ。
後は、木箱をクラーナの家に運べば、引っ越し完了である。
「……全部一気に運べるかしら?」
「うーん、どうだろう? 思ったより量が少ないし、いけるかも」
「そうね……二回来るのも面倒だし、さっさと運びましょうか」
木箱は、全部で四つだった。
私が、あまりものを必要としないこともあって、荷物はとても少ないのだ。
ちなみに、ギルドから台車を貸してもらっているので、手で運ぶ必要はない。
「それじゃあ、行きましょう」
「うん!」
こうして、特に問題もなく、私達の引っ越しは終了するのだった。
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