第32話 そんな話知らなかったから

 私とクラーナは、ギルドに来ている。

 そこで、私の知り合いのリュウカさんに会ったのである。


 リュウカさんは、私をパーティに誘おうとしてくれていたらしく、クラーナがそのことに嫉妬してしまい、少し態度が悪くなってしまったのだ。


 しかし、リュウカさんは、それを気にすることなく笑ってくれていたので、大丈夫そうだった。


「……それなら、二人で私達のパーティに来ないか?」


 そこで、リュウカさんが真剣な顔に変わり、私達二人を誘ってくれる。

 リュウカさんは、本当にいい人のようだ。行き場のない私達を、偏見の目で見られることを承知で、誘ってくれている。


 それはとてもありがたく嬉しいことだ。もしかしたら、それを受け入れるのもいいかもしれない。


「ありがたいけど……」


 私が、そう思っていると、先にクラーナが口を開いた。

 どうやら、結論は出ているようだ。


「その誘いには乗れないわ」

「……何か、問題があるのか?」

「アノンだけならともかく、私のことを、あなたのパーティメンバーがどう思うかは、わからないもの」

「それは……」


 クラーナは、自分のことを気にしているようだ。

 確かに、現状はリュウカさんしかクラーナのことは知らない。


「仲間に聞いてみれば……」

「獣人を受け入れられる人間は多くないわ」

「でも……」

「アノンが獣人と一緒にいると話した人は、いい顔をしていた?」

「いや、それは……」


 クラーナは、リュウカさんに対して、そんな言葉をかけた。

 リュウカさんの反応から、どのような態度かは想像できる。


「それが答えよ……」

「すまん……」

「いいのよ、あなたは悪くないもの……」


 リュウカさんは、クラーナをパーティに入れられないことを、悟ったようだ。

 リュウカさんが平気でも、パーティメンバーが駄目なら、二人でそのパーティには入れない。


「なら、二人で不安な時は、声をかけてくれよ。手が空いていたら、力になるからさ」

「リュウカさん……ありがとうございます」

「……その言葉は、ありがとう。もしもの時は、頼らせてもらうわ」


 それでも、リュウカさんは私達に力を貸してくれると言ってくれた。どこまでも、いい人である。


「……ところで、今日はどうしたんだ? 依頼なら、いいものがたくさんあったぞ」


 そこで、リュウカさんは話を変えた。

 気まずい空気にならないように、気を遣ってくれたのだろう。


 話さない理由もないので、私はここに来た訳を喋ることにする。


「今日は、手続きをしに来たんです」

「手続き? 何かあるのか?」

「はい、部屋の解約とパーティを組むのとを……」


 私の言葉に、リュウカさんは目を丸くする。

 何か、驚いているようだ。


「部屋の解約って、ギルドから借りた所、出ていくのか?」

「あ、はい。クラーナの家に一緒に住むので……」

「え? 一緒に? それで、パーティは……」

「はい、クラーナと組みます」


 私がさらに言葉を放つと、リュウカさんはさらに驚いた。

 そんなにおかしなことを言っているだろうか。


「お前達……」


 そこで、リュウカさんが口を開く。


「結婚するのか?」

「え!?」

「はあ!?」


 そこから放たれたのは、とても信じられないものだった。


 結婚とは、一体どういうことだろう。

 私の言葉から、何故そんな連想になってしまったのか、まったく理解できなかった。


「いや、同棲して、ギルドでパーティ組むんだろ? パーティなんて、手続きが面倒くさくてメリットが少ないって言われていることやるのは、カップルとか夫婦の冒険者くらいだぜ……」

「え? そうなんですか!?」


 それは、初めて聞くことだ。

 パーティ契約に、そんな意味があったなんて知らなかった。


「ア、アノン……あなた……」

「ク、クラーナ! 違うよ!? 知らなかったんだよ!?」


 クラーナが顔を赤くして、こちらを見てくる。

 もちろん、そんな意図があった訳ではない。


「あーあ、すまん。私が余計なことを言ってしまったな」

「い、いえ……」

「あ、あなたは別に……」


 私とクラーナは、顔を赤くしてしまうのだった。

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