第31話 ギルドで会ったのは

 私はクラーナとともに、ギルドに来ていた。

 色々な手続きをするためである。


「あ! アノンじゃないか!」


 ギルドに入った私を見て、一人の人間が呼びかけてきた。


「リュウカさん……」


 その人物は、私の知り合いである。

 私が前のパーティにいた時、何度か一緒に任務をすることがあったリュウカさんという人だ。


 男勝りな性格で、豪快だけどいい人だが、私が罪人の娘であったことが知れ渡ってから会うのは初めてである。


「……アノン?」


 クラーナも、私の動揺を察してか、小声で心配してくれた。

 私は、クラーナの手を握る力を強め、リュウカさんの言葉に備える。


「聞いたよ、色々と大変だったんだってな……」

「あ、その……」


 不安を感じていた私にかけられたのは、思っていたよりも優しいものだった。

 その表情も、悪意があるようには見えない。

 どうやら、私のことを心配して声をかけてくれたようだ。


「……って、獣人!?」


 しかし、リュウカさんの表情は変わってしまった。

 私の隣にいるクラーナを見て、驚いてしまったようだ。


「……っ!」


 そのことで、クラーナの表情も歪む。

 やはり、正面から自分の存在を疎まれるのは、辛いようだ。


「……あ、いや、すまん。話は聞いていたんだが、実際見ると驚いた……」

「……え?」


 そこで、リュウカさんがクラーナに頭を下げた。

 そのことで、クラーナも目を丸くする。


「どういうことですか? リュウカさん?」

「……アノンが、獣人の子と一緒にいるって、パーティの一人から聞いたんだ」

「なるほど……」


 そういえば、私はクラーナを守るために、割と大胆なことをしていた。

 それを、リュウカさんのパーティメンバーに見られていても、おかしくはない。

 そもそも、噂として広まっている可能性もある。


「いやあ、私も駄目だな。こんなじゃ……」


 リュウカさんは、クラーナを見て驚いたことに、罪の意識を感じているようだ。

 やはり、世間の人々は、獣人を偏見の目で見ているらしい。


「……別にいいわ。慣れているもの」

「あ、いや……」

「むしろ、あなたくらいのは、優しい部類よ」


 私がそんなことを考えていると、クラーナがそう言って、リュウカさんに話しかけていた。

 リュウカさんがすぐに謝罪したからか、少し柔らかな雰囲気である。


「そ、そうか……すまなかったな」

「それで、あなたは何をしに来たのかしら?」


 しかし、クラーナの態度はすぐに変わってしまった。

 急に、警戒心を強めたような感じになったのだ。一体、何が気に入らなかったのだろうか。


「うん? ああ……」


 それを見て、リュウカさんは何故か納得したような顔をする。

 もしかして、クラーナの警戒心の理由がわかったのだろうか。


 私の疑問を察してか、リュウカさんが、私に目を向けてきた。事情を話してくれるようだ。


「いや、実はな、アノン。お前がパーティから抜けたなら、私の所に誘おうと思っていたんだ」

「え? 私を……ですか?」

「ああ、事情がなんであれ、お前はお前だからな。いい奴だっていうのはわかっていたし、パーティの奴らも、いいって言ってくれた」


 リュウカさんが話してくれたことは、私にとってとても嬉しいものだ。

 罪人の娘ではなく、私自身を見てくれる。それは、私が一番望んでいたことだ。


「だけど、なんというか、邪魔だったみたいだな……」

「え?」

「そっちの獣人ちゃんが、すごい見てくるし……」

「ち、違うわよ! そんなことは……」

「ああ……」


 リュウカさんの言葉で、私は理解する。

 クラーナは、リュウカさんの意図を察して、私をとられると思ったのだろう。

 なんだか、とても嬉しい。


「アノン、何を勝手に納得しているのかしら?」

「え? だって、私をとられたくなかったんだよね?」

「……そうよ! 悪い!?」


 私の言葉に、クラーナは素直に答えてくれる。

 やはり、思った通りで、本当に嬉しかった。


「はは、仲が良いんだな」

「はい!」

「……もう」


 リュウカさんも、クラーナの態度に起こることもなく、笑ってくれている。

 リュウカさんがいい人で、本当によかった。

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