第30話 出かける前に

 朝起きて、朝食を終え、私とクラーナは、出かける準備をしていた。

 今日は、色々とやることがあるため、早く家を出発するのだ。


「さて、まずはあなたの手続きね」

「うん、時間がかからないといいんだけど……」


 私は、クラーナとともにこの家に住むことにした。

 そのため、現在借りている部屋を返す手続きをしなければならない。それは、ギルドから借りたものなので、そこで手続きを行うのだ。


「あ、それとせっかくパーティを組むなら、その手続きもしようか?」

「パーティの手続きって、そんなのあったかしら?」

「うん、あるよ」


 私とクラーナは、冒険者としてパーティを組むことにしていた。

 パーティは、口約束で決めることもできるが、実はギルドできちんと契約できるのだ。

 クラーナは、そのことを知らなかったようである。


「ギルドで、正式にパーティを組めるんだ。私も、今までは組んだことなかったけど……」

「それって、何か意味があるの?」

「色々と管理が楽になるらしいよ?」

「そうなのね」

「それに……クラーナと一緒だっていう証にもなるから……」

「アノン……」


 私がクラーナと、正式にパーティになりたいと思った理由は、後者の方が大きい。

 一つの証として、ギルドに登録しておけば、何か安心できる気がするのだ。


「し、仕方ないわね、その手続きもしましょうか」

「うん、ありがとう、クラーナ」


 私の言葉に、クラーナは喜んでくれた。

 口では、ああ言っているが、尻尾が大きく振れており、顔も少し赤くなっているので、丸わかりだ。


「あ、そうだわ、あなたの引っ越しもしなくちゃならないわね」

「うん、そうだね」


 今日は、今住んでいる部屋から、衣類などの荷物も運ばなければならなかった。

 そんなに量がある訳ではないが、これも少し時間がかかるだろう。


「……考えてみれば、依頼をする時間はなさそうね」

「確かにそうかも……」


 改めてやることを振り返ると、それだけで一日が終わりそうな気がしてきた。

 もしかしたら、今日は依頼ができないかもしれない。


「まあ、デビルベアのお金だけで、何日かは大丈夫だろうから、今日も依頼は受けないでおきましょうか」

「そうだね……あっ!」

「うん? どうしたの?」


 そこで、私は一つのことに気づいた。

 それは、これから一緒に暮らすに当たって、とても重要なことだ。


「その、クラーナ、これからは私のお金もクラーナに預けてもいい?」

「お金を? どうして?」

「一緒に暮らすから、一つに纏めた方がいいかと思って……」

「確かに、そうね……」


 これからは一緒に暮らすので、お金の話はしておくべきだった。

 私とクラーナで、共有の資産とすれば、あまり問題は起こらないだろう。


「でも、私が管理していいの?」

「うん、私よりクラーナの方が、しっかりしてそうだし……」

「わかったわ、お金の管理は、私に任せてちょうだい」


 クラーナは、私の提案を了承してくれた。

 これで、当面の問題はないかな。


「……なんか、色々話し過ぎちゃったかな?」

「……そうね、そろそろ行きましょうか。残りの話は、帰ってからすればいいのだし」


 そこで、私達は話を切り上げ、出かけることにした。

 ここで話していると、時間がなくなってしまう。

 これからは、ずっと一緒なのだから、そういう話は後ですればいいだけだ。


「それじゃあ、はい」

「うん? その手は何かしら?」


 出かけるので、私が手を伸ばすと、クラーナは不思議そうな顔をした。


「あ、手を繋ごうかと思ったけど、嫌だったかな?」

「手?」


 私は、クラーナと手を繋ごうとしていたのだ。

 出かけると思うと、そうした方がいいと思ってしまった。

 色々と理由はあるが、一番はクラーナと離れないためだ。


「なんで、そんな子供みたいなことを?」


 それに対して、クラーナはそう疑問を口にする。

 ただし、尻尾は振っているし、顔は嬉しそうだ。


 しかし、私は困ってしまった。

 理由を上手く説明できないからだ。


 少し悩んで、私は答えを出す。

 言えるのは、素直な気持ちだけだった。


「……一緒にいたいから、これじゃ駄目かな?」

「……そう。それなら、仕方ないわね」


 私の曖昧な答えに、クラーナはそう返してくれる。

 そして、私の手をとってくれた。


 お互いの指を絡ませ握りしめ、私達は手を繋いだ。

 クラーナの温もりが伝わってきて、なんだか安心できる。


「行きましょう」

「うん」


 こうして、私達は出かけるのであった。

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