第40話 謀られたぜ

 ふんふふーふふーん


「エルたん」

「なんですご主人さま」

「呼んだだけ」

「あ、ハイ」


 ふんふふーふふーん


「えーるたん」

「なに、ご主人さま」

「呼んだだけー」

「あの、お掃除のじゃまになる……」


 ふんふふーふふーん


「えーるた――」

「【ぴょこぴょこハンマー】!! 邪魔! ご主人邪魔!」

「ぐえぁ」

「そりゃあ、私がちゃんと喋れるようになったのを喜んでくれるのは嬉しい、でも相手にしっぽをこすりつけるものではないと思うな!! 確か親愛を超えた愛情のしるしだよ。発情期のときでも百合百合な関係に発展していないのだし、やりすぎです!!」

「ひーんおこらりたー」

「起こりますよ!」

「じゃあお手伝いをしよう。しっぽ箒しっぽ箒ー」

「【だぶるぴょこぴょこハンマー】!!しっぽ汚してどうするのー!!」




 本当に邪魔だったらしく、砦のサクラの部屋にまでひょいと抱きかかえられて、ぽいっと捨て置かれました。くそう、小さいから私軽いんだよね。エルたんだと私は簡単に持ち運べてしまう。

 ちなみにだけど、エルたん種族効果や、筋肉量も身長もあるから60㎏くらい、私35㎏程度。正確な体重計がないから参考程度ですが。


 あ、そう。冬です。冬なんですよ。冬は大体の作業が止まって物流も止まっちゃうので、みんな家に引きこもって暖炉の前で寒さをしのいでます。

 サクラの中型砦は石材で出来ていますが、石に【高気密高断熱の魔法】をかけて外に逃げる熱を遮断しているので割と今風の家っぽい快適さを誇ります。

 さすがは超古代文明の大工職人さんや。



 そうそう、物流は止まっちゃってますですけど、遂にサクラ商会パールライト本部に香辛料とかアクセサリーとか、そういう必需品や嗜好品が常設で並び始めました! こういうのが揃うって素敵ですよね!! F2戦闘機乗りの小説みたいな文学作品や絵本、幼児教育の本とかも並び始めましたね。

 商人のアキちゃんな商会の人に頼めばモノを売りに行ってくれて、こういう品物と利益を乗せて帰ってきてくれるんです。

 まだルーデルには交易路がありませんけど、とにかく道が通せるように森が切り開かれればルーデルにも交易ができるようになりますね!!




 今まで冬は大戦争を起こしていたんだけど、今年は特になくてのんびり。



 のんびりということは……。




 ギシアン戦争の始まりです。




 いやーね、男女の中とか夫婦に発展したカップルとか、いたんですよ。やっぱり大戦争だったり厳しい開拓環境を経ると恋仲って発展しやすいので。


 そういう連中がやることない冬にやることと言ったらヤることでしかなくて。




 あ、いや、いやらしい気持ちは全くなくて。発展するって移民だけじゃないですので。内側から人口が増加するのも発展です。

 ここはもう地球の偉大なる教え、教育は絶対なり、これを実行します。だからオギャーからモノになるのは20年後くらいかな?全然おっけー。

 ああ、それなら教育機関作らないとね。


 まだまだ男性割合が多いこの開拓地ですが、女性がおこないやすい仕事を増やしていきたいところだね。



 あー冬ってなにもないなー、なーんにも――


「冬だぜお頭ぁ!! 体力トレーニングの季節だぜ!!」

「びゃああああああ」


 逃げ出す私!

 捕まる私!

 再度逃げ出す私!

 今度はエルたんに捕まってしまう私!


「私もトレーニングするからご主人様もしましょう」

「おに! あくま! おーく!」

「わたしおーくえるふだしー」

「あああ罵倒を返すとかこころつええええ!」


 じたばたしましたが、エルたんが【魅惑の魔法】を使ってきて敗北。この子魔法強すぎる。


 うぇーい、うぇーい、うぇーい


「はぁ……はぁ……」


「まだまだいけるぞー! マッスルー!」


「ご主人、がんばれ、がんばれ」


 うぇーい、うぇーい、うぇーい


「もう……だめ……」


「マウンテンクライマーはそこからひねり出すのが力になるんだ!」

「ご主人! ふぁいとっ! ふぁいとっ!」


 なんでエルたん汗一つかかずにこれやってるんだ……

 などと思いつつ他にもトレーニングをこなして1ルーチン終了。そう、1ルーチンなのである。


「やっぱ逃げる!」びゅーん


「にげたな、『適度に』追え」

「エルの姉御! 了解でっさー!」


 びゃああああああ

 追えー! ずどどどどど


 びゃああああああ

 追え追えー! ずどどどどど


「はぁ……はぁ……捕まりたくない」


 びゃああああああ


 びゃあああ


 びゃ


 ばたり


「もう、走れない……」しっぽもげきちん

「お疲れご主人、走りのトレーニングはこれまで」

「は、謀ったなエル……」

「エルの姉御には逆らえねえや! マッスルポーズ!!」

「遊んでいるところ悪いが、木こりの報告をさせてもらうぜ」

「いきなり登場だねキッコリー……用事は……なんだい……」


「ああ、用具の鋼鉄化と精密工具の作成が、とりあえず終了したぜ。この上には工具鋼や合金工具鋼なんかで作った道具があるんだが、まずはこれで」


「おおー、頑強な工具、精密な工具で作った正確な材木は建築の基本だもんね魔道で動かすチェーンソーやジグソー、旋盤とか工作機械も出来たってことだね」


「ああ。あの大工、大工というか完璧な製造職人といったほうが正確だな。普通は『道具を使って道具を作り、その道具でさらに道具を作って道具の精密さをあげていく』んだが、そういうのなしで一気に精密な道具を作ってくれる。お金が貯まったらもう一台、いや、一人呼び出してほしいくらいだ」


「むふー、100万ユロルなんで無理。プレゼントに期待しようね。そういえば、井戸のグレードアップで水はどうなってるかな」


「そうだな、魔導ポンプ化したのがかなりデカい。労力がかなり要らなくなった。魔法が強い人なら魔導でポンプを使えるしな。今はかわりばんこでくみ上げて貰っている。そして温度管理できる井戸にしたのはとんでもねえな。今の時期はあそこでお湯を作って炊事洗濯をするのが一般化したぜ」


「ほへーなんかすごい便利だね。そろそろ上水道の魔導的整備といきたいところだねえ。やっぱり家で炊事が完結したほうが便利だよね」


「おいおい、ルーデルでもそこまで完備はされてねえんじゃねえか」


「私のいたところは普通だったよ。利益の使い道の一つとして考えておこうね」




 冬前半は穏やかな時間が流れていき、猛吹雪が舞う冬半ばから後半になるのでしたー。

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