第30話 ごぶごぶ攻防戦!!




 夜です。夜になりました。



「前みたく何もしてこないといいけどなあ……」

『前は知らないが、開錠しにこようとはするだろ』

「キュウちゃんはそう思うかあ。とりあえず二人で寝ずに見回りしておこうね」


 わたしは夜目が効きませんが音と鼻が効く。キュウちゃんはほぼほぼ妖怪なので何でもござれ。

 キュウちゃんと一緒にゴブリン本体の陣があるであろう方面の監視を受け持ったよ。


 この私の身体まいぼでぃ結構凄かったらしく、モロッコシー先生による身体トレーニングによってその才能が開花されました。

 数日は夜寝なくてもいいし、体力や魔素の回復量も結構ずば抜けてたりする。疾走も森の中を駆け巡るのもなんでもござれ。

 超チートとは言わないけど、割と何でもできる体になったよ。さすがっす、モロッコシー先生……きつかったけどね。おきつねは怠く生きたい。


 まあそういうわけで私とキュウちゃんでうろうろしていたのだよ。


 なーんもないまま夜が明けて、2日目の籠城戦。何やればいいんだろ?


「何やりゃいいんすかね?」なんとなく緊張が抜けて気楽な私。

「ここから飛ばせる弓矢の範囲じゃないから、様子見しかねえだろうな。壁の近くに行くと反撃の矢が飛んでくる恐れがある」

「それは困るなあ。魔法の盾とか出したいけど、魔法使い、いないしねえ」

「えっと、僕が〈戦闘魔法III〉まであげればそれなりの魔法が出せますよ、壁の近くまで移動しないといけませんけれども。」

「お、まっじー?じゃあやってもらおうハルキ君一人ならキュウちゃんに乗って魔法使えば多分矢が当ることはないよ! 多分!」


 ユロルを渡して、ハルキ君がクラスチェンジ!!


「んー、ファイアボールとかいけますね」

「おお、なんかすごそう! やって見せてー!」


 キュウちゃんに乗ったハルキ君がファイアボールを発射!


 どどん!


 ハルキ君の腕から生み出された炎の玉が壁を越えて飛んでいき……。


 どっかーん!


 曲がらずに空中で爆発。


「あ、曲射しないんだ……」

「打ち上げ花火だねこれは!! やったあ!! ユロルを返せーー!!」


 反撃とばかりにゴブリンから大量の矢が飛んできたのでさっとその場から離れました。無傷無傷。


「んーなんかないのかね?このままにらみ合ってもなあ」

「このままだと食料の消費合戦になってしまうかな。籠城しきれるからこちらのほうが有利だとは思うが。さすがに何も考えてこないで攻めてはこないだろう」

「だよねえキッコリー。兵士だけで打って出る?」


「防具があればそれも出来るんだがなあ。固く締めた布の服だけじゃあゴブリンの弓矢、もしくは魔法に対抗できないだろう」

「ゴブリンにも魔法なんてあるんだ」

「ああ、シャーマンが使うって話だ。この規模ならゴブリンシャーマンってやつがいてもおかしくはないぜ」



 どうにもなんねーなー。ということで2日目が終わり。


 3日目。


「うーん、領民が不安になってきているなあ」

「無理もないさ、何もせずににらみ合いが続いているからな」

「んー、もうさ、弓とクロスボウ部隊を壁に配置して撃ちまくろう。もっともっと籠城できるけど、これ以上は領民の精神が耐えられないんじゃないかな」

「……わかった。よし、行くぞ!」


 砦の頂上から壁の内側についている木の階段に速やかに移動。階段の上には足場があって、一応木の壁に守られながら射撃ができるというもの。

 ケンタウロスのケンさんたちは大きいので階段が使えず。木製の移動式設置盾を展開して配置についたよ。


「よーし、うてうてー!!」


 私の号令とともに、弓矢、クロスボウ、魔導銃。各種遠距離が飛んでいきます。十数名による射撃だけど、ゴブリン軍に相当なダメージを与えた模様。


「これならいける!!」


 こちらへのダメージは微小、壁に隠れながら射撃できるのはやはり有利だねえ。


 がんがんしゃげきだー!


 というところでゴブリン軍に矢が届かなくなりました。あるぇ?


「これは?」

「風の衣でも張って遠距離から身を守っているんだろ。シャーマンがいることが確定したな」


 風の衣の展開で遠距離戦はゴブリンに傾きました、だって届かないんだもん。


 風の衣を展開しながらゴブリン軍は木の扉の方に近づいていきます。


「やはり狙いは扉の破壊と強襲か。くそ、ここからは参謀ハルキだ、頼むぜ!!」

「わかった、クラスチェンジ!! ……石投げを行いましょう。風の衣とはいえ、質量アタックにはそこまで対応できないはずです」

「ってことは、扉ギリギリまで破壊槌を引きつけるってこと?」

「そうなりますね。魔導銃とクロスボウ部隊は屋上から狙撃してください。風の衣で防ぐのにも魔素が必要ですから、無限に防がれるということはないです」

「弓矢部隊は?」

「追撃に使いますので矢の温存を」


 ということで投石部隊と遠距離狙撃部隊になってゴブリンを削ります。


 ここでケンタウロスがさらに役に立ちました。その強靭な体でポンポン石材を投げていきます。つよいなー。

 ぽーんと高く空中に放られた石材は放物線を描き、破城槌で攻撃しようとしている部隊に襲いかかります。まあ、あんまり直撃はせんけど……

 それでもゴブリンも臨戦態勢に入っていて前に出ているから風の衣にあたって魔素を消費させていることには成功しているかな。


 もうゴブリンが壁に張り付いているので市民兵士はサクラの小型砦の中に避難。矢があたっちゃうもんね。




「今の状況は?」

「石材投石と、クロスボウと魔導銃による狙撃ですね。数は30くらいにまで減ってはいます」

「30もいたら蹂躙されちゃうね。壁、木の門はどれくらい持つの?」

「強化はしてあるので持ちはしますが……それでも数時間ですね」

「ううーん、まずいな」

「ケンタウロスや僕は白兵部隊にもなれますし、キッコリー部隊は白兵戦ができます、一方的とは行かないでしょう」


 とまあそんなことを喋っている途中に


「……ぁ!」


「ん、なんだいエルたん。魔導銃が打てないくらい魔素が切れたのかい?お疲れ様だよ」


 エルたんは首を振って


「ぁ! ぁ!」


 身振り手振りで話します。


「んーわかんない、このA4用紙にちょっと書いてよ」


「……………………」


「これは?」


「……………………」


「都市防衛の魔法陣……?」


「ぁ! ぁ!」


「書けるんですか?あれはかなりの高度技術だったはず」


 エルたんは賢者ハルキくんの問いに大きく頷くと、私に術に使うアイテムを買うよう要求。


「はい、買ってきたよ」


「……ぁ」


 エルたんは桜の小型砦の中心部に魔法陣を書き始めました。


「市長、そろそろ門が突破されるぜ。準備してくれ」


「うん、今都市防衛の魔法陣書いてるから。それまでどうにかして」

「いやそんなこと言っても」

「どうにかして」

「……わかった」


 キッコリーは決死の覚悟で去っていきました。




「ぁ!」


「できたっぽいね」


「ぁ!ぁ!」


「ん? 私が魔素を注入するの?そか、注入は私が一番得意か」


 というわけで、注入!! ぬおおおおおおすごい魔素が持っていかれるううううううう!!


 なんとかかんとか魔素を注ぎきれた私ですがフラフラ。


「私は戦えないよ、ハルキくん頑張って……」


「余裕ですよ、今私には魔法鎧が装着されています。おそらくこの都市の住民全員に。壁も強化されていることでしょう。ゴブリンの破城槌ではもう壊せませんよ」


「そっかー」


「そうですー」


 というわけで視察。おおーなんか物見櫓が複数出現して、そこからケンタウロスが投石攻撃、そしてクロスボウ部隊が射撃を始めているよ。


 門はかなり頑丈になっているらしく、破城槌ではどうにもならなくなったみたい。半壊だけどそれ以上の破損は免れている。




 1時間もしない内に形成は完全に私達の方に。ゴブリンが逃げ始めました。


「追撃の時間だ!! 全員武器を取れ! 門を開けよ!! 」


「突撃準備よし!ケンタウロスと私ハルキが先陣を切ります! 生きた重戦車をなめるな!!」


「よし!目標は完全殲滅!! とつげきぃぃぃ!!」



 わあああああああああああああああああ



 いくら民兵中心といえど、背中を向けてにげるゴブリンを殺すのは造作もないものでして。ぐっさぐっさ。


 真っ先に逃げたゴブリンはケンタウロスの移動射撃の餌食になり次々と死んでいき、まれにケンタウロスの体で踏み潰されることもあったり。どこのカタクラフト騎兵だよケンタウロスさん。


 モンブツは防衛隊として残しておいたよ。ただ、平和そのものだったみたい。


 ほぼしっかりと駆逐したところで



 勝利!!



「わーい、かったー、かったよー」祝のしっぽダンス

「姉さんまた目がサクラ色だったっすね」

「あ、そうなの?まいいや、かっーたーかったよー」


「市長、ゴブリンシャーマンから杖を手に入れたぞ、売ってもいいだろうししっかり調べて自分たちで使うことだってできる」

「使おう。調べはルーデルの鑑定ショップかな」


「わかった。それと壁の強化案なんだが……」



 戦後処理はまだまだ続くのでした。

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