第25話 冬です。



はい、冬です。


 この星がどう地軸が傾いていてどう公転しているかはわかりませんが、2週間くらいで一気に季節が変わります。

 夏から秋の時に経験しているので初めてではないのですが、異世界に来たなあ……と強く感じます。


そう、冬です。


 【温度計測魔法】によると、外は摂氏マイナス15℃くらいまで冷え込んでいるようです。雪もさんさんと降っています。

 今はサクラの大広間、暖炉そばにいます。ここで大体15℃くらい。温度の差が実に30℃。すごい頑張ってるよ、暖炉君!!


「冬って、雪だるま作りしかやることがない!!」


「石材と岩塩は動いてますので鼓舞しに行ってください、お館様」


「私が行ったらエルたんが寒がるでしょうがー!!」


「そんな格好させているから寒がるんですよ」


そう、エルたんは今メイド服、しかもハリコー作のミニスカメイド服を着用しているのだ。もう完全に私のおもちゃ。


「…………」

「え、寒さなんて関係ない? そっかーエルたん強いなーでも私は弱いよー無理無理」

「出る気全くありませんねお館様。しょうがない、彼を呼びますか……」




「きたぜぇ! お頭ぁ! さあ!トレーニングだぁ!!」


「ぎゃああああ」


逃げ出す私。

追い付かれて外に引っ張り出される私。

もう一度逃げ出す私。

首に紐付けられて強制的に走らされる私。



「ぜぇはぁ……寒い……疲れた……死ぬ……」

「……! ……!」

両手を拳に握り、頑張れ頑張れしてくるエルたん。

「応援……ありがとう……エルたん……」


「まだまだ走れやすぜぇ!! さあ、岩塩のところまで猛ダッシュだ!!」


「ひえぇぇぇぇ」


エルたんに応援されながら走ったりなんだり、身体トレーニングすること10日ほど。



 寒波がやってきました。外の気温摂氏マイナス30℃。北海道より寒いのでは!?!?

 みんなハリコーが作ってくれた綿わた入りの布団をかぶって、ハンタが作ってくれた綺麗に処理された毛皮を身体に巻いて、各家に設置された暖炉の前にいます。メインメンバーは私の家ですけど。それにしても寒い!!


「あああああ、じぬーじぬーざむずぎるー」


「モロッコシーは元気に外を走ってるっすね、体力づくりと称して」


「普通の人間って思っていた時期が、私にもありました……」


 寒波の時には多めに食事をとるのが一番。食料保存庫に大量にある干し肉とモロコシ、干し柿のようになっている干し果実を食べましょう。


 干し肉はそのままだと塩分が凄すぎてとてもじゃないけど食べられるものではないで水で戻してからスープにします。干し果実はそのまま。モロコシは石臼で挽いて粉にしたのをねりねりして、トルティーヤ風にして食べます。

 野菜がありませんがモロコシの栄養で補っています。モロコシ奇跡の作物だと思うくらい栄養価が高い。これ超古代文明の遺産では?

ただ、これだと食物繊維はどうしても取り切れないので便秘になるのが玉に瑕。夏秋は食べられる草を食べて野菜の代わりにしていたんです。


「こうしてみると、本当に過酷な開拓生活なのに脱落せずみんなよくついてきてくれたね。ありがとう」


「開拓リーダーが姐さんじゃなかったらとっくに逃げ出してるっすよ」


「ああ。こうやって頑張っているのは市長のカリスマ性によるものが大きいな。市長がリーダーじゃなかったら俺なんか参加すらしていなかっただろうよ」


「そうなのかな、ありがとうーえぐえぐ」



 一週間くらいで寒波が去り、何とか外に出られる温度になりました。


「というか、あんまり寒く感じません」


「お館様、寒さに慣れたのではないでしょうか」


「市長は何でもありだからなあ」


 身体の温度を一定に保つ【恒常性維持技術】の成長、といったところでしょうか……。本当に何でも成長しますねこの身体に【市長権限の加護】は。


「寒くないなら外で走るぞお頭ぁ! 体力は裏切らない!!」


 拉致られました。また拉致られました。


「ひぃ……はぁ……。モロッコシー先生、もう、もう駄目です動けない」


 寒波で生まれた雪をかき分けて進むからそれだけで大変なのに結構な速度で走らされています。


「そこから頑張らないと成長しないんだ馬鹿モーン!! ほらほら走れ!!」


「はいぃぃいいぃ」



「今日は筋トレだ!! 自重筋トレしかできないが、やればやるだけ成長する!! 筋肉は裏切らない!!」


「秋もきつかったけど、冬は毎日毎日これ。冬ってこれが一番大変かもしれない……」


 体中を筋トレで痛めつけられ、持久力や瞬発性をランニングや短距離ダッシュで痛めつけられ。ドMにはたまらない冬となりました。私は普通のおきつね人間だよ……! つらみしかない。寒波よ来てくれ、来てくれ……!



「2週間頑張りました。身体の変化を感じます。身は引き締まり、筋力は増加しました。うん、筋肉は、裏切らない、ですね……」


「やったなお頭ぁ! これで百人力だぁ! 筋肉は最高だぜ!!」

 無敵のマッスルポーズ!!


 残すところ後一か月。寒波がこないとき以外は毎日しごかれました。もうゆっくり休みたいで――。


「お頭ぁ! あと一か月しかないけどしっかり身体作っていこうぜ!!」


 ……言葉も涙も出ません。



 毎日続けたといえば、魔法関連の訓練も続けました。

 魔素切れを起こすまでMP体内魔素を消費し保有するMPの最大量を増加させたり、細かい作業を魔法で行って魔力及び魔力制御魔法操作の技術の訓練をしたり。

 魔法を使うにおいての根本になる技術なので、総合的な魔法技術力を高めることに繋がりました。

 ……私、訓練好きな気がする。やっぱりドM……? いやいや、向上心が高いんですよ、向上心が。

 よくわからないまま異世界ジャンプして、よくわからないまま市長になって、よくわからないまま領地を運営してますからね。まあ、せっかくだから意識を高くしないとっ。


――――


 きつねって丸まって寝ますよね。あの習性は私にも受け継がれていて寝るときは丸まって寝ています。くの字型になってしっぽをおまたから引っ張り出して抱きつく。もふもふしっぽが気持ち良いのじゃー。


「姐さんのしっぽ、夏は毛が抜けてほっそりして美しいし、冬はもこもこしていて温かそうっすよね。ずるいなあ、ハリネズミにはしっぽないっすよ」

「ハリコーってしっぽないよね。人間寄りだね」

「針はあるっすけどねえ」


「その針で針治療をおこなって、エルたんの呪いって解けないかなあ?」

「なんすか針治療って」

「あそっか、知らないか。んー【市長権限の加護】には呪いは吸い出せるって記憶があるんだけど、吸い出すってどうやるんだろ」

「キスして吸ってみたらどうっすか?」

「……!?」

「よし吸ってみる。エルたん、唇をさし出せ」

「!?!?」

「命令命令」


泣きながらエルたんは私に唇を差し出しました。ふひひひひ。



ぶちゅー。



「うげえ、何かが入ってきた」

「呪いじゃないっすか? 姐さん当たりっすよ当たり」



「……ぁ、……ぁ」




「おおおおおおおお、エルたん声が出たあああああ!?」

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