ごぶごぶとの攻防戦!

第10話 ごぶりんくっせー、はながよじれる。



「えー、槍は突き刺す以外にもぶっ叩く鈍器のような手法もありー……」

「突き刺すときはしっかりと! 抜けなくなったらピンチだけど、槍の重さで相手の動きを封じられます! だから替えの槍をすぐに持って!!」


 エイサッエイサッエイサッ…………


「木製の槍とて木製の棒なんです、上段から振り下ろせば鈍器になりますよ! 木だから弱いなんてのは幻想です!!」


 エイッエイッエイッ…………



 本当に訓練コーチしてるよ、私。



 今は3月上旬と、夏始まったばかり。麻と綿花はもう収穫が始まっていてモロコシの収穫もまじかに迫り、農作業で大忙しな開拓地パールライトですが訓練も隙間時間にやっております。

 私は毛の生え代わり時期なのでブラッシングが欠かせない。すんごい量の毛がぬけるんだよー。


「姐さんの毛の抜け方見てると羊が欲しくなるっすね。羊毛は暖かいっすよ」

「んー、何度か南の開拓地テリアルブにいって薬草とか丸薬を捌いていて今貯蓄がそれなりにあるし、買ってこようかなあ……」

つがいで買ってくるんすよ、子供が生まれたら肉にしてもいいし、毛を取る存在にしてもいいっすし」

「酪農系で買うの、いっぱいあるよねえ……牛さんも買わないと」

「お肉兼ミルク兼ミルク加工品になるっすからねえ。ここに牛を呼び込むのが非常に大変ですけど」

「酪農家セットってのがホログラム宝箱に売られているからそれを購入すれば大丈夫かも……あ、鶏もあったな、すぐに購入してくる! 鶏小屋合わせて15ユロルしかしないし!」


「鶏の話はしてないっすよ姐さん……、まあいいっすけど」


 というわけで鶏小屋を購入&設置。

 設置したらいきなり12羽もの鶏が出現したよ!?

 餌は草原で勝手にとってるらしく、こちらからあげる必要はなし。

 それでいて雌は毎日律義に鶏小屋に戻って卵を産んでくれるというね。さすが超古代文明の技術で生まれた生物という感じがする。

 雌10羽の雄2羽なのですが喧嘩もなく。

 お肉はとれないけど卵を取る感じだねっ。ばんざいばんざーい、しっぽぽーよよんぽーん!



 夏から秋にかけて、ここでは新鮮な錬金術の調合素材が手に入るんだよね。ちなみに春は山菜とか食料が多め。錬金素材も手に入るけどね。


 なのでハルキ君を連れて素材狩りに出発でーす、しゅっぱつしんこー、おー!


「はわわ、これは錬金基剤に使うやつ! これは傷薬にそのままなるやーつ! これはそれに合わせると日持ちがするようになる補助素材! はわわわわわわ!!」

「『桜』さん落ち着いて。この広大な森、探せばいくらでもありますよ」

「『日本語で桜はまずいよ』ハルキ君。ここでは異世界言語でサ・ク・ラ、だよっ」

「あ、はい。つい……」

『まあ日本語喋りたくなるよね』

『そりゃあもう! 喋りたいですよ、母国語なんですし!!』


「ま、死にかけたか死んだところをここに飛ばされて、しかも近くにいたんだ、一緒に頑張っていこっ」首傾げニッコリポーズ


「はははははいいいいいいいい」鼻血ぶわぁ


 うぶやなー


 なんて掛け合いをしながら採取してましたら……。



「……臭い。臭いよ」

「え、僕腋臭ですか?」

「あほう! ゴブリンだと思う」

「パールライトからさほど離れていませんよ!? こんな近くに!?」

「まずいよね、ちょっと偵察してくるね。ハルキ君はハンタに連絡を取って。ワーウルフの彼が一番強いから」

「あ、あ、危なくないですか!?」

「そんな慌てた顔しないで、大丈夫、きつねは慎重な動物だからね」うそです、好奇心しか持ち合わせてません。


 というと、颯爽と臭いの元に歩いていく私。あ、ちょっとかっこいい。




 あーくせーと思いながら近づいているよ。ゴブリンって本当臭いね。きつね的には最低なモンスターだよ。

 のそのそ、そろりそろりと近づくこと数分、いました。ゴブリン1匹。なにをしているんだろう?


 木に小便かけて……よくわからない踊りを踊って……そして森の恵みを採取……


 このゴブリンも採取してる? 採取係? 採取ってそんなに遠くには行かないはず。え、じゃあこの近くに巣かなにかがある?


 後をつけよう、巣に戻るはずだし、場所を特定すれば対策も簡単になる。


 くっせーかほりを嗅ぎながら後を追うこと数時間、やっと居住地に戻ってくれました。ぐあー臭さが100倍増しって感じだよ居住地は。鼻がよじれて取れる。


 見たところ、巣というかは開拓地に近いかな?異世界の【浅い知識】の中にある、多くなりすぎると分裂して居住地を新たに作るというやつが目の前にある感じだ。


 とりあえず目を凝らしながら聞き耳を立ててみますか。【市長権限の加護】の力にある【言語術】はなんとまあほぼすべての言葉を理解してくれるすごい技術なんです。異世界言語はマスターで、他はノービスって感じですけれども。まあわかるんだよ言葉が。



「サンサイ トレタ!」

 これはさっきの採取係かな。

「ヨクヤッタ! ドレイ ハラデカクナッタ!」

 これは声が低いしなんかこう、直感がボスって言ってる。

 ドレイ ハラデカクナッタ 奴隷、腹デカくなった。

 ……【市長権限の加護】の一般知識にはこういう記憶があります。

『ゴブリンは性別かかわらず他種族もしくは他部族を奴隷にとる。自力でなにかを製作するということはまずしない、奴隷にやらせる。中でも女性は繁殖の苗床にされる。』


 んんんんんんんんんん、許せない。でも私は英雄譚に出てくる勇者様じゃないのでどうすることもできない。


 軽く涙を流しながら足音を聞き分けて、5~6匹のゴブリンしかまだいないことを確認した後その場を離れたよ。

 場所は岩塩からは遠いけど開拓地パールライトからはちょっと近いところかな?うーん、先日のゴブリンの棲家はもっと森の奥にあるってみんな思い込んでいたよ、迂闊だった。


【方位磁石魔法】で方位を確認して、森から出たんだけど……



 ハルキ君この魔法持ってないから森で迷っちゃったんじゃない!?


 開拓地に帰り。


「ハルキ君を森の中で一人にさせちゃったよおお、お、お、ぉ? ……いた」


 いるやんけ。


「偶然ハンタさんと遭遇したんですよー、ついてました」


「お館様、次からはこのハンタもお連れください。私は【地図魔法】を所有しておりますから【方位磁石魔法】と組み合わせることにより、正確な場所を把握できます」


「わー便利、じゃあ今度からは連れてい――」


「――おう、また抜け駆けかハンタ」


 ブチ切れ気味のキッコリー。


「レースは正々堂々とだとおもいやすぜぇ!」


 マッスルポーズで威嚇してるモロッコシー。


「なにをおっしゃる、自分をアピールするのは悪いというのですか」


 ワーウルフ独特の牙をむき出しにするハンタ。


「君ら少し落ち着きたまえ!!!! 恋のレースやってる場合じゃないんだよ!!!!」


「「「ウィッス」」」


 まあ、まあ? かわいいかわいい綺麗な私を好きになるのは構わないけど、そういう場合じゃないのよね、今は。うん、そう、そうなんだよ。デレデレ顔するな私。

 私でみんな争わないで―!! じゃないんだよ。さっきの状況で若干心が浮ついちゃったりしてるんじゃないよ。


「姐さんもあたしのように家庭持ったほうがいいっすね。それで、決行は三日後くらいってところっすかね?」



「ん? うん、そうだね。準備する合間に訓練を積んでおこうね。敵は本能寺にあり!」


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