開拓スタート!

第7話 早川春樹君



「お頭ぁ! てえへんだぁ!」


むう、人が小屋でお昼寝中というのになんですかね。


「モロッコシーさん、私は眠いのです」


「てえへんなんだよ! 近くで人が倒れてる!!」


「人、人。……ええええええ!?!? どこでですかモロッコシーさん」


「こっちだ、早く魔法か錬金術で治してあげてくれ!」


と言われて連れて来られているのは西の方の森。動物と薬草の他に何がいるんでしょうね。周辺探索進めておかないとなあ……


なんて他のことを考えながら歩いていくと、いましたいました倒れている人間が。うつ伏せで寝てるね。んーと、外見は……


「黒髪で男性、非武装、上着は革の服で何か中に来ていて、下は布のズボンかな? 普通の民ですね」


「ここまで黒い髪は見たことがないですぜ」


「黒髪とか嫌な予感がするなあ。近づいて起こしてみましょうか」


ケガしてるかもわからんしね。


「こんにちは旅の物さん、意識ありますか?」





「ふむー、意識なしですか。ひっくり返しますよー、えいっ」


私とモロッコシーさんで仰向けにひっくり返すとそこにはっ!


「醤油顔のイケメンですね……うーーーん。どう見ても日系が入ってます、本当にありがとうございました」


「こんな人間はルーデルじゃあ見たことねえですぜ」


「ユニーク個体ってことで。とりあえず目立った外傷はありませんし、モロッコシーさん運んでいただけますか? 


「合点承知!!」



モロッコシーさんが極貧な理由は、筋肉にお金を使いすぎていたからなんですよねえ……。多分、ね。


 さて、背負って運ぶ際にモロコッシーさんと醤油顔の体格体形を比較してみたのだけど、醤油顔はいわゆる中肉中背で身長は170cmくらいかな。そんなに筋肉なさそう。モロッコシーさんは2mあってムッキムキの体格。

 あ、長らく意識せずに使っていたけど、長さや重さの単位に関してはほぼ地球と違いがなかったので、そのまま利用してる。くたばれヤードポンド法。


 私が150cmあるかないかなので、私視点だと大男が中男を背負っているようにしか見えないなー。でかーいでかーい。しっぽぽよよんぽよよん。


 開拓地に戻った私たちは、私の小屋の中に醤油顔を運びこみまんた。

 私の【おきつね直感〈なんとなく〉診断】で大丈夫だったので、時間がたてば目が覚めるよね。




 夕方になり、みんなが小屋に集まってきたころ……。


「ううーん」


「お、起きたようですね」


「ここは……? あれ、俺はトラックにはねられ……て……」

 ガバッっと飛び起きると。


「お前ら何者だ!」



 こちらのほうに身体を向けて、警戒した顔でそう言い放ちました。ほう?


「市長、無事に目が覚めたのですし開拓地の外に返しましょう」


「うん、ちょっと待ってねキッコリーさん」


 どう考えてもどう見ても日本人だもんなあ。

 日系アメリカ人3世とかじゃない限りは……。


『日本語わかるよね?』


「な!? 日本語!?」


――

「なるほど、早川春樹はやかわはるきくん18.5歳浪人生は、異世界転生してきたんだね」


「そう、なりますね。よくある神様とかには出会いませんでしたけど」


「そっかーじゃあチートは出来そうにないかあ」


「申し訳ありません……」


 あらら、犬のようにシュンとしちゃった。


「うそうそ。でもなんらかの加護はもらってるよね、ここの言語が分かるってことだし」


 手をひらひらさせながらそう言いますと。


「そうなりますね」


 今度は神妙な顔もちで醤油顔は答える。顔がころころ変わる醤油顔さん。あ、ハルキ君だね、ハルキ君。


「ここじゃあミドルネーム、苗字は使えないからね、今後はハルキ君として生きていくんだよ」


「はい」


「じゃあね」


「……」


「ほかに何か?」


「あ、あのっ!ここで生活させていただくことできませんか? このままじゃほぼ確実に野ざらしです!」


「お米食べられないし、今トウモロコシすら食べられないよ」


「大丈夫です!炭水制限生活送ってきました!デブでしたけど……」


「あ、そうなんだ。えっとね、お肉もそんなには食べられないよ。ここ他所の支援が受けられないのにまっさらな開拓地という状況だから、野生のものを食べて生き抜くことをしないといけない」


「……大丈夫、です。なにより……」


「なにより?」


「いた世界は違えども、同じ日本人がここにいますし、その、あの」


「その?」


「はい、……その、綺麗なきつねのお姉さんと一緒にいた……ほうが心強いかなあ、なんちゃって」


 綺麗なきつねのお姉さんとな。


「ふっふっふ」


「駄目ですか……」




「逆! おねーさんに任せなさい!」

 目がぴかーん!!




 そんなわけで住人が一人増えました。



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