噓の種類2-4

 不満顔は無意識のものだったらしい。


 私がこらえられずに笑い出すのを見て、理由は分からないがじらいを覚えた様子。暗がりでも分かるほど目を丸くしているが、口元は弱々しい。


 「なに、なぁに?」


 メアリは笑われたことに慌てて私に手を伸ばす。

 危ないと思った時には彼女の体がプールサイドから外に落ちかける。

 それを咄嗟とっさに彼女が伸ばした手を取りつつ、滑り込むように受け止めることができた。あぶない。危ない。

 

 何か言おうと思ったが、ひんやりとした水の冷たさがシャツに染み込む。

そのあとから彼女の体温がじんわりと広がっていく。

 その温もりに別の誰かがいる安心感を覚える。


 私は何も言わずに一度だけ、メアリを軽く抱きしめて上着を羽織らせる。

 彼女はそのことにしばらく惚けていたが、何かを察したのかもしれない。上着を自身で羽織り直すと、「誰かいるって、いいよね」とつぶやいた。


 私は心中をぴたりと当てられ、姿勢を正すように驚く。

 このときばかりは彼女が人生経験豊富な相手に見えてしまった。

 落ち着きと余裕のある眼差しというべきか。自分が子どもに戻った気分だ。


 「ジェイもそう思う?」


 それはメアリの心中だったらしい。

 感情の宿る瞳は星明かりの中でも輝いている。

 

 「ジェイ?」


 彼女の声で我に返る。

 メアリに笑って見せた後、星空を見上げる。

 しばらく一緒にいられたら、そう願う気持ちがある。

 私は私自身に噓をつけるだろうか


 プールの上は満天の星空。

 

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