噓の種類2-3

「調子はどう?」


 その質問にメアリは、「元気だよ!」とはっきりした口調で答える。

 目の前で見れば、その調子の良さは間違いなさそうだ。


 薄暗い中でも髪につやがあるのが分かる。

 肌も水の含みとは別につややかで張りがあるように感じる。

 それよりも彼女の“水を得た魚”のような表情の明るさと、気持ちよさそうにられている姿すがたは見ているだけで私もいやされる。

 やはり人魚は水と共にあるのが似合うのだろう。


 私はメアリに手で挨拶あいさつをしてから相棒の元に向かう。


留守番るすばん、お疲れ様」


 そう相棒に声をかけつつ、ホースからの放水を止めてもらう。

 プールは満水というわけではないが、メアリが簡単に身を乗り出せるだけの水位はある。これなら彼女がプールと舗装ほそうされた中庭を行き来するにも充分だろう。


『では、給水作業に入ります』

「よろしくね」


 レイヴンは放水側のホースを巻き取るように収納する。

 巻き取られるホースは球体少し上の空間にある、もやのような揺らぎの中に消える。


「その、出てくるところ、触ろうとするとおこるの」


 プールサイドに顔をのせながら不満そうに顔をふくらませるメアリ。

 昼間よりも表情の変化が早く細やかになったように見える。

 それだけ元気になった証拠だろう。


「その中に手を入れるのは危ないから。やめてね」


 その言葉にメアリは“むー”と言いながら仰向けに寝転んだ。

 その逆さ向きで見るメアリの不満顔は少女のような可愛げがあり、そして何よりも面白おもしろおかしい。

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