嘘の種類2‐2

「ジェイ?通り過ぎていますよ」


 いけない。

 うっかり、路地を曲がり忘れた。

 ホースを辿りながら戻っていたはずなのに、心ここにあらずだった。


 何にせよ、博士ドクター最後の挑戦は成功したのだ。

 ぶっつけ本番の片道切符。それを完璧かんぺきに送り出した天才。

 それが博士だ。


 今度はちゃんとドムス前まで戻ってきた。

 紺色こんいろの夜空は星がきらめきはじめている。一方で白や薄茶うすちゃけていた建物は影を含み、庭先は昼の陽だまりを失って建物の影にまれている。

 ドムスの入り口は真っ暗で、中庭もかろうじて様子が分かる程度だ。

 その向こうで水の流れ出る音。


「戻ったよ!」


 試しに声をかけてみる。すると、ぱしゃんと水の飛び散る音と一緒に「ジェイ!」とメアリから返答があった。


 真っ暗になった玄関を抜けて中庭に出る。

 抜けた先のホールも、中央以外はすっかり暗い。

 ただ、中庭のプールだけは水のらめきが壁の暗がりを不定期に照らす。

 その揺らめきに光を与えるのは差し込む夜空の光か。


「ここだよ、ここ!」


 私の姿を確認したのか、メアリはプールから手を振る。

 そんな彼女の姿は暗い中でもよく見える。広場の地下もそうだが、そこだけ光が差し込むとより強調されて見えるのだろう。


 笑顔の彼女を見て安心する私自身があった。

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