Journey with Mermaid EP.5 嘘の種類(うそのしゅるい)

嘘の種類1‐1

 1日はあっという間かもしれない。


 ドムスの中庭、そのプールに水を張るころには夕方になっていた。

 途中休憩きゅうけいを挟みながらプールの砂埃すなぼこりを取り除き、水漏みずもれがないか確認かくにんしながらの注水ちゅうすい。これといったトラブルはなかったが、プールの点検だけで随分ずいぶんと時間を使ってしまった。


 ホースから勢いよく流れ出る水に、はしゃぐメアリ。

 それを私はプールサイドに腰掛こしかけながらながめていた。


 やはり、人魚姫が水辺にいるというだけで似合うものだ。

 もしかすると私がビーチやプールサイドの美女に夢中むちゅうになっているのと大差ないだけかもしれないが、少なくとも御伽噺おとぎばなしにある人魚姫の魅力みりょくは水があってのものだと思う。


 周囲が夕日を受けて建物のかべが赤みを帯び、日陰ひかげが暗がりへと姿を変える。

 そうして見えるものが限られていく中で、一際ひときわきらめく水面で左右に尻尾を揺らす姿は人魚の持つ魅力みりょくであり、魔性ましょうともいえるかもしれない。

 そんな人魚姫をもうしばらく見ていたかったが、相棒から声がかかる。


『ジェイ、水の補給をしたいのですが』

「レイヴン、了解したよ」


 私は相棒が新しく出したホースを受け取って担ぐ。


「ジェイ、どこか行くの?」

「広場の穴から海水を汲み上げるんだよ」

「あの水、あぶないよ」

「今出ている水も地下の水を安全にしたものだから」

「すごいのね、レイヴン?相棒?」

『レイヴンです』


 レイヴンをつつくメアリ。


 私は「すぐ戻るから」と彼女に言い残して外へ向かった。

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