人魚姫1‐3

 だとすると、水源が健在かもしれない。


 それなりに条件が揃う必要はあるが、例えば大雨が降った時のみ水源とのパイプが復活して、都市水道の終着点である広場まで水が流れる――。

 この予想が正しければ、水源との繋がりを直すことで都市の水道機能は回復する。水路の崩落や詰まり程度なら個人でも修理できるだろう。


 何よりも水の手に入る都市遺跡があれば、定住にも旅の中継点としても安心できる。しばらくは乾燥期のイタリア半島にいるようなもの。水源の確保はしておこう。

 そして、その調査の折に人魚姫は水源に戻すべきだろう。

 もしかしたら彼女の仲間がいるかもしれない。


 仲間、か――

 そのあとは現地で考えよう。


 問題は目の前の人魚姫。

 彼女を地上まで上げる必要がある。


「レイヴン、起きているかい?」

『おはようございます。ジェイ。』


 レイブンは単眼をキョロキョロさせた後にこちらを見る。


『どうかされましたか?』

「人魚を地上まで運ぶ」

『はい?』


 相棒は海水を真水に濾過ろかしていたホースから盛大に水をぶちまける。


『失礼ながら、ジェイ。朝食は摂りましたか?』

「まだだね」

『では、まず朝食から。低血糖か寝ぼけています』

「いや、正気さ」

『私は危険だと警告しましたよね!』


 単眼を黄色に光らせながら、真水を浴びせられる。


『目は覚めましたか?』

「いんや、俺は寝たままらしいね。気は変わらない」

『やれやれ、私は最低限のサポートしかできませんよ?』

「それでいいさ」


 AIは素直で助かる。

『人間はすぐ見た目に騙される……まったく』


 警告ではなく、恨み節か捨て台詞をくらった気がする。

 誰だこんなAI設定にしたヤツ。

 いや、私か。

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