2-4

 冷たい。

 だが、私が触れたのは人のそれだ。


 触れていた右手で自分の左手を触る。

 感触かんしょくは近いが、違う。だが、触れてわずかに沈み込むような弾力だんりょくは人のもの。

 モノと思い込もうとしただけにショックが大きい。


 これ以上はサポートがいる。

 レイヴンはリュックの中。

 そのリュックは飛び降りる際に置いてしまった。

 リュックの方を見るが、距離が離れすぎている。

 この距離ではうまく機能してくれるか分からない。取りに戻らないと。

 彼女が生きていたのか確かめなければ。

 もし、もっと早く来ていれば会え――

 振り返った先に青いひとみ


 私は驚きすぎて声が出ない。

 人魚は体を起こして、ぼうっとこちらを見ている。

 その表情はすぐにおどろきや恐怖を感じたかのように険しくなり、次の瞬間には下半身をバネにしてヘビのように水の中へ消えた。

 ほんの一瞬の出来事だ。

 人魚と目を合わせて、それが暗がりに消えるまでが。


 彼女が残した波紋はもんと水しぶきがなければ自分でも見たものが信じられない。

 あとは人魚が去った方向を放心気味に眺めるしかない。

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