2-3

 薄暗い階段を抜けて広場の下を目指す。


 ここは地下水道だったらしい。

 水の枯れた水路を辿って広場下の空間へ顔を出す。



 これは――、舞台といえば良いのだろうか。


 薄暗い地下空間に一筋の光が差し込んでいる。

 舞台の中央には人魚が横たわり、その周りの水面だけが光を受けて輝いている。

 その外側をぐるりとアーチ構造の柱が立ち並び、これが地下の舞台と暗い場外を分けているかのよう。さながら客席から舞台を見ているような気分だ。

 また、光と影を分ける柱はそれ自体が経年劣化の変色とコケやカビといった白や黒、緑・紫・オレンジなどで彩られており、これが舞台を彩るパッチワークのカーテンとなって舞台に花を添えている。


 ここから見ているだけでも綺麗なステージだ。

 だが、私は目の前で人魚を見たいのだ。

 舞台の上をあこがれる観客ではない。


 水路から飛び降りて舞台を目指す。

 太ももまである水の抵抗など気にならない。やや騒がしく強引に光の中へ入る。

 小島に上がって膝をつけば人魚は目の前。


 下半身は細かな虹色の輝きとターコイズブルー。上半身は雪よりも淡い花びらのような白。栗色の髪は腰ほどもあり、ウェーブがかった髪は光の加減で濃淡が違う。

 光に照らされるきめ細かな肌と女性的なシルエットは、彫刻と言われればそうかと納得するしかない。人魚の姿と相まって現実ではありえないモノなのだ。


 まぁ、この街にいればまた会える。

 気持ちを切り替えたつもりだが、名残惜しい気持ちを隠せず人魚の顔に触れる。

 冷たい石の髪と肌は無機質な触感を伝えてくる――


 私は困惑した。

 人魚の顔に触れた手は、栗色の髪を引きながら間違いなく人肌に触れていた。

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