2-5

 生きていた――


 驚きすぎて感情が無い。

 ただ、いつまでもほおけてはいられなかった。


 人魚がながら再び姿を現したのだから。


 最初は直前のこともあって理解できなかった。

 だが、只事ただごとではない。呼吸ができずに叫ぶような息遣いの彼女を見て体が勝手に動いていた。思考が存在しなかった。罠である可能性など考えもしなかった。


 人魚は駆け寄る間に弱っていく。辿り着いた時にはもう助からない魚が最後の力で姿勢を保とうとする弱々しさになっている。

 どうした。と声をかけても反応はない。片膝をついて彼女を抱える。

 その瞬間。


 顔を支えようとした右手に痛みがはしる。

 見ると人魚に噛まれていた。

 訳もわからず最後の力で噛んだのか、その直後に力なく倒れこむ。

 それをなんとか受け止める。


 人魚をやっとの思いで小島に運ぶ。そこで彼女の肌に気付く。

 先刻目にした、透けるように白い肌は今や大部分が痛々しい赤に変色している。

 人魚がせき込む。だが、息が荒い一方で目は覚まさない。

 そんな彼女を抱えて広場を見上げる。


 広場の穴が途方もなく遠い所にある気がした。

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