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 街は死んでいた。


 いや、分かっていたことだ。

 街の外に延びる街道はなく、周囲に畑もない。

 きっと、とうの昔に草原へと還ったのだろう。


 そよ風を受けて白波のように揺らめく草原。

 それを神殿からただ眺める。


 街の外周に張り巡らされた白壁は何十、何百年と押し寄せる草原をせき止めてきたのだろう。街の中には自然の浸食は見られない。だが、そこに人々の喧噪はない。

街に入ってすぐ目についたのは、建物の劣化と石畳を覆った砂埃。

 街の静寂と相まって、都市の「死」を意識せざるを得なかった。


 神殿のベンチに腰掛ける。厳密にはベンチチェアなのか確かめる術はない。だが、街中にも石造りのものがあった。これも大理石製である以外は横長のベンチに思える。海と陸側それぞれの見晴らしのよい所に置いてあるのだからベンチだろう。


 私にとって、この街の存在意義は大きい。

 この街のおかげで自分と同じ人類がこの土地にいたのだと確信できた。

 街に残されていた陶器などはどれも風化していたが、住居の装飾や落書きとして壁に残る人類の姿は間違いなく人間なのだから。

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