第12話

 とてもお腹がすきました。

 ハクちゃんと遊びはとても面白くて、思わず時間を忘れてしまいました。

 綿のように疲れてしまいました。

 この場に立ってられないくらい疲れているのです。

 同時に激しい空腹を感じてしまっています。


 私のためにハクちゃんが用意してくれた昼食は、とても美味しかったです。

 最初に出してくれたのは、駆けっこやかくれんぼの途中でも、喉が渇いたと思ったら直ぐに用意してくれた、水で薄めたジュースでした。

 一緒に集めたブドウやナシを横に置いてくれているので、なんのジュースか飲む前に分かるようになっていました。

 思わずブドウとナシにイチゴまで、三杯も飲み干してしまいました。


 次にハクちゃんが出してくれたのが塩を添えた白パンでした。

 塩を少し舐めることで、白パンの旨みと甘みが朝よりも引き立てられていて、本当に美味しく食べることだできました。

 朝と同じように唾液が全てパンに奪われた時には、朝食の時と違ってお水を出してくれました。

 お陰でジュースの甘みと旨みを感じることなく、純粋に白パンの旨みと甘みを楽しむことができました。


 満足するまで白パンを食べて、ひと心地ついたころに、ハクちゃんは赤ワインと白ワインを出してくれたのです。

 一瞬ハクちゃんの顔を見てしまいました。

 昼食からワインを飲んでもいいモノでしょうか?

 ろくに働かない王侯貴族の方々は、朝からワインやエールを飲んで遊び惚けていますが、私はそのような事は嫌なのです。


 ですが、ハクちゃんの顔を見ていると、何となく言いたいことが分かりました。

 さっさとお昼寝しなさいと言いたいのですね。

 思わず吹き出しそうになりました。

 まるで乳母です。

 私にとっての母親とは、生まれて直ぐに乳母に預け、ろくの抱いたこともない実母ではありません。

 親身になって育ててくれた乳母です。


「分かったわ、ハクちゃん。

 あまりに美味しくて眠たいのを忘れてしまっていたけど、お腹が一杯になると食卓に突っ伏して寝てしまいそうね。

 ワインをいただいて寝させてもらうわ」


 私はハクちゃんの優しさに甘えることにしました。

 自分の主義主張を護ることも大切ですが、親身になって心配してくれているヒトの想いを踏み躙るほど大切だとは思えません。

 

 そう思ったとたん、赤ワインと白ワインの横にチーズが現れました。

 赤ワインの横にはカマンベールが置かれています。

 白ワインの横にはヴァランセが置かれています。

 ハクちゃんが私のために選んでくれたのでしょう。

 美味しそうな香りに、知らず知らずのうちに手を出してしまいました。

 私の記憶はそこで終わってしまっています。

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