第11話神獣視点

 この聖女は正直者であるな。

 まあ聖女に選ばれるくらいだから、普通の人間とは違うのは分かっていたが、喜びを全身で表現するのはとてもよろしい。

 見ていてついつい何かしてやりたくなってしまう。

 余ともあろうものが……


 だがまあよい。

 これほど美味しそうに食べるのなら、昼食も腕によりをかけて作ってやる。

 だがその前に、ちょっと遊んでやろうではないか。

 人間の瞬きするような一瞬の命。 

 神獣のうたた寝よりも短い命。

 楽しませてやるのが年長者の務めというモノである。


 ……とても、とても腹立たしいことであるが、とても楽しいのである!

 子犬の姿に変えられてしまったせいか、聖女と駆け回るのが楽し過ぎるのである!

 思わず聖域を作り変えて、草原を広げてしまったのである!

 とても困った事であるが、まあいい。

 とにかく今は楽しいのである!


 ついでなので、遊びながら聖女を鍛えてやろう。

 何者かに抑え込まれていた聖なる力は、余の力で解放してやったが、このままではせっかく解放してやった力もろくに使えまい。

 遊びとみせかけて、聖なる力を全身に行き渡らせて、身体を護りつつ強化できるようにしてやろう。


 なに簡単な事だ。

 子供にほんの少しの痛みを感じさせて、痛みや危険から避ける動作を覚えさせるのと同じだ。

 余がほんの少し聖なる力や魔の力を肌に当ててやれば、無意識に聖女の中の聖なる力が自分を護ろうと反応する。

 そのうち常時聖なる力が全身を駆け巡るようになる。


 攻撃というべきか反撃というべきか、聖なる力を放出する方法をどうやって覚えさせるかだが……

 聖女は動物を狩って食べることに抵抗はないのだろうか?

 ないのなら狩りに聖なる力を使わせればいいのだが……


 果実を集めさせるときに、聖なる力を放出させるのはどうであろうか?

 動かない的になってしまうが、果実を潰さず、果実を木をつないでいる蔓だけを的確に狙うというのは難しいから、適度な練習になるであろう。

 

 聖女は夢中で気がついていないが、余が逃げるのを追いかける聖女の速さは、鍛錬を重ねた一流の戦士の三倍の速さはある。

 このまま五倍十倍さらに二十倍五十倍百倍と、全ての動きを早くしていけばいい。

 少し隠れて、余を探す遊びをさせれば、徐々に探索斥候の力をつけさせることができるであろう。

 逃げるのと探すのを交互でやらせれば、隠遁の能力も鍛えられるはずだ。


 まあ、この聖域で暮らす限りは、余が護ってやるから何の心配もないがな。

 だが人間とは同族と暮らしたいものだ。

 聖女も番いの相手を探さねばならんしな。

 鍛えてやらねばなるまい。

 なにより、余も楽しくてしょうがない。

 もっと、もっと、聖女と追い駆けっこしたいのである!

 

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