第8話神獣視点

 聖女も無理無体を言う。

 余のような長く生き続け、知識の塊のような神獣だからできるが、普通の精霊なら得意不得意があるのだ。

 水精霊や風精霊にいくら頼んでも、火を熾すのは不可能なのだ。

 この聖女はそんな事をわかっているのか?

 わかっていないだろうな。


 この聖女に余の偉大さを思い知らせてくれよう。

 聖女が望むのなら、どれほどの珍味佳肴でも再現してやれる。

 小型の亜種ならば、人間では絶対に狩れない竜であろうと、簡単に狩ってやる。

 人間が好む牛馬や魚介など直ぐに狩り集めてやる。

 だが聖女はそんな事は望んでいないだろう。


 だから肉の実を使って料理を作ってやった。

 とは言っても簡単なモノだ。

 肉の実で人間が食べられる部分を食べやすい大きさに切り、オリーブオイルをしいた鍋に入れて炒めるだけだ。

 味付けも岩塩だけだ。

 聖女が来ると分かっていれば、デミグラスソースやチーズソースを作っておいてやったのだが、直ぐには用意できん。


 いや、聖女なのだから、生き物を殺して材料にするデミグラスソースは嫌がるかも知れないな。

 今から野菜だけで創り出す、時間のかかるソースは作っていてやろう。

 幾十種類もの果実と野菜に、香辛料や塩や砂糖を加えて煮詰めた濃厚ソースとウスターソースは喜ぶかもしれん。

 今は、直ぐに完成するトマトソースとキウイソースで満足してもらおう。


「まあ!

 なんて美味しいのかしら。

 こんな料理が作れるなんて、ハクちゃんは天才ね!

 心から尊敬するわ」


 ふむ!

 そこまでほめるのなら、これからも作ってやるのも、やぶさかではないぞ。

 ふむ、誰か精霊を使いにやって、チーズや牛乳を買いにいかせよう。

 チーズや牛乳なら、生物を殺して食材にするわけではないからな。

 聖女も嫌がったりしないであろう。


 ふむ、そうだ。

 精霊ならば時間と場所をとわず現れることができるから、別の大陸にも買い物に行かすことができる。

 醤油やポン酢を買ってこさせよう。

 どうせあの大陸にまで行かせるのなら、みりんも買ってこさせよう。

 いや、みりんを買ってこさせるのなら、色んな酒を買ってこさせようではないか。

 料理に酒を使ったら、幅広い味が創り出せるぞ!


「ねえ、ハクちゃん。

 今作ってくれているのはスープなのかしら?

 とても美味しそうな臭いがするわね」


 ふむ、勘違いしておるのだな。

 あれらはスープではなくソースじゃ。

 料理を美味しく、いや、肉の実を美味しく食べるためのソースじゃ。


「わん。

 わん、わんわん!」


 え~い、言葉が通じないのはまどろっこしいのぉ!

 しかたないのぉ。

 そんなに期待しているのなら、スープも作ってやろうではないか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る