第7話

「ハクちゃんを信じて食べてみるわ」


「わん。

 わん、わんわん!」


 四の五の言わずに信じて食べろと叱られた気になってしまいました。

 思わず苦笑いしてしまいました。

 美味しい!

 何とも言えない美味しさです!

 いえ、ちゃんと表現できます。

 肉のような食感の、生肉のような旨みのある果物です。


 私も貴族の端くれでしたから、王家や有力貴族主催の舞踏会では、珍味佳肴を食べたこともあります。

 普通なら生では食べれない肉や魚を、料理人の腕で生で食べれるようにした、特別な料理も食べたことがあります。

 それにとても近い味だと思います。


 どうりでハクちゃんが美味しそうに食べていたわけです。

 ですが、私は、どれほど珍味佳肴でも、魚肉を生で食べるのは好みませんでした。

 やはり火を通して、料理してから食べたいのです。

 そんな事を思っていると、またハクちゃんが激しく鳴くのです。


「わん。

 わん、わんわん!」


 ハクちゃんの視線を追うと、いつの間にか調理場、台所ができています!

 大理石であろう、光り輝く石作りの釜土が部屋の隅に鎮座しています。

 その横には、国によっては天火と呼ばれるオーブンまで現れています。

 横には鉄でできた鍋や釜、石でできた鍋や釜まで置かれています。

 あまりに摩訶不思議な事です!


「まさかとは思うけれど、全部ハクちゃんがやったの?」


 そうとしか考えられません。

 ここは恐ろしい魔獣が数多く巣食う魔境なのです。

 本来なら、私など入ったとたんに喰い殺されているはずです。

 それが今も生きていられて、このような奇跡に出会えているのは、全てハクちゃんのお陰としか考えられません。


「わん。

 わん、わんわん!」


 ハクちゃんが自信満々という態度を示し、声を張って鳴きます。

 その可愛らしく滑稽でもある姿に、吹き出しそうになりました。

 でもそんな事は許されませんん。

 ハクちゃんは命の恩人かもしれないのです。

 あまりに可愛らしい姿なので、つい否定しそうになりますが、全てはハクちゃんに出会ってから始まっているのです。

 でも念のために確かめさせてもらいます。


「本当にありがとう、ハクちゃん。

 ハクちゃんのお陰で安心して眠るところが得られたわ。

 のどの渇きも癒されたし、空腹も満たされました。

 でも、できることなら、この肉の実は火を通して食べたいわ。

 釜土やオーブンに火をつける事はできるかな?

 情けない話なのだけれど、料理したことがないの」


 もし、ハクちゃんが本当に私の命の恩人なら、試すなんて不遜極まりないことだと思います。

 でも今確かめておかないと、魔獣に襲われた時に、ハクちゃんを逃がした方がいいのか、ハクちゃんに助けを求めた方がいいのかわからなくなるのです。

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