第9話

「ハクちゃん、一緒に寝てくれる?

 恥ずかしいけれど、すごく不安で、なにか哀しいの。

 一人では寝れそうにないの。

 お願い!」


 熱々の美味しい食事を食べさしてもらって、生死をかけて張りつめていた気が、一気に抜けてしまいました。

 どっと疲れが身体中を駆け巡り、倒れてしまいそうです。

 でも同時に、一人きりの不安と哀しみにも襲われてしまいます。

 柔らかく寝心地のよさそうな苔のベッドと巨大葉の布団ですが、一人で寝るのはとてもつらいのです。


「わん。

 わん、わんわん!」


 ついハクちゃんに頼り甘えてしまいました。

 ハクちゃんに断られてしまったら、心が潰れてしまっていたかも知れません。

 でもハクちゃんは可愛いく返事をしてくれました。

 一緒に寝てくれたのです。

 ハクちゃんと一緒に苔のベットに入り、巨大葉の布団に包まれ、ハクちゃんの温かさを感じたとたん、一瞬で寝てしまいました。


 恥ずかしいですが、気がついたら朝を迎えていました。

 とても恥ずかしいことですが、ヨダレをたらしていました。

 よほど疲れていたのだと思います。


「わん。

 わん、わんわん!」


 ハクちゃんの声に誘われて、ベットを出ると、朝食が用意されていました。

 急に喉の渇きをおぼえて、竹のコップに入れられたオレンジジュースを、一気に飲み干してしまいました。

 適度に薄められていたのでしょう。

 濃すぎなくて、喉の渇きに丁度いい飲み物になっていましたが、甘みと旨みと酸味の調和が絶品の美味しさでした。


 直ぐに焼き立ての白パンが食卓に出されます。

 食欲をわきたてる、何とも言えない焼き立てパンの芳香です!

 一気に口の中に唾液が湧きだします。

 無意識に手を出して頬張っていました。


 白パン独特の甘みと旨みが口一杯に広がり、あまりの美味しさに、耳の下、扁桃腺が縮んで染みるような痛みまで感じてしまいます。

 白パンに唾液を奪われ、口の渇きで食べ難くなるまで、夢中で頬張っていました。

 いつの間にか食卓には新しいコップが置かれています。

 渇きを癒そうとコップに口をつけると、乳でした。


 乳独特の優しい甘み。

 全く獣の臭さがありません!

 普通の乳は母体となる獣の臭いがするので、牛の乳か山羊の乳か、はたまた馬の乳か直ぐに分かります。

 ですがこの乳には獣臭さが全くないのです!


 よほど清潔に育てているのでしょう。

 一度だけ王家主催の舞踏会で飲んだことがあります。

 農作業をさせず、乳を搾るためだけに、大切に清潔に育てている牛の乳は、同じように全く臭いがしませんでした。

 思わず一気に飲み干してしまいました!

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