第7話

 冷凍のサバの味噌煮を湯せんで温める。副菜に、これも冷凍のほうれん草を電子レンジで解凍する。あとはインスタントの御味噌汁をお椀に入れてお湯を注げば夕食の出来上がりだ。

 ごはんをよそって、妻が部屋着に着替え終わるのを待つ。


 今日の献立は随分前に動画で紹介してある。どれも複数のメーカーから出ている定番商品だ。サバの味噌煮なんて、冷凍食品だけではなく、冷蔵保存から常温保存のパックに缶詰だってある定番中の定番だ。

 動画では近所で買えるものを集めて、比較レビューの形で紹介した。


 常温保存のパックや缶詰は、保存期間との兼ね合いか、味は冷凍や冷蔵のものと一歩劣る。それでも俺が作るものよりは十分の美味い、はずだ。レシピを料理サイトで見てはみたものの「霜降り」ってなんだ、と思っただけで作ったことはない。

 冷凍食品とインスタントで用意出来る食卓は、保存も利くからとても使い勝手が良い。それでいて俺が作るよりも美味しい。ほうれん草を茹でるくらいなら問題なく出来るとは言え、茹でる時間を測るよりは電子レンジのタイマーのほうが正確だ。

 なぜガスコンロにはタイマーがついていないのだろう。


「今日は何かあったの?」

「ん?」

「なんだか疲れてるみたい」


 そう妻に言われたのは、夕食を食べ終わりお茶を飲んでいる時だった。

 疲れて見えるなら、それは暴言を見直して整理するという、気持ちばかりが沈む作業をやっていたからだろう。

 そんな思いをして整理してみたが、改めて整理すると暴言は暴言でも、訴えれるほどの暴言かというと微妙だ。これが数百とか数千になるならまた別だろうが。今は動画一つにつき律儀に一つの暴言という感じなので、一人のユーザーあたり数十のコメントに留まっている。


「ああ、ちょっと動画のほうでね。酷いコメントがあってさ」

「そうなの? どんな?」

「んー、まあ、暴言っていうか、馬鹿にしてるっていうか、そんな感じ」

「ふーん、そう。無理しないでね。別に辛い思いしてまで続けることもないでしょ」


 今の動画の収入はアルバイト代くらい。前の会社の給料と比べれば格段に落ちるのは確かだ。しかし、この足で前の会社と同じだけの給料がもらえる場所があるかは分からない。何を言ったところで、足が不自由なのは外回り中心の営業も、一日立って作業することも出来ない。通勤だって、バスや電車はキツイ。


「少しは稼げるようになってきたし、もう少しがんばってみるよ」

「……無理はしないでね。生活費なら私がなんとかするから」


 そうは言っても、妻だって毎日疲れた顔をしている。

 このご時世にフルタイムの仕事が見つかったのは運がよかった。それでも、疲れた顔を見ているとなんとかしないと、と、そう考えてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る