第6話

 調べてみると、暴言を書き込むユーザーは決まっていた。

 新しい動画を投稿する度に、律儀に見に来ては暴言を残していく。嫌いなら見に来なければいいのに。

 片足とスーパーの名前を書き込んでいたユーザーもその一人だ。

 少し前の動画から律儀にコメントを残している。

 俺の個人情報に関わることを書いているユーザーはこれ一人だけだ。


 ブロックという機能がある。

 これを使うと、嫌いなユーザーのコメントが表示されなくなるようだ。

 暴言ばかりをコメントしてくるユーザーをブロックすれば、俺がコメントを目にして嫌な思いをしなくて良くなる。ブロックしたコメントが他のユーザーに見えるのかとか、ブロックした事実が相手に伝わるのかとか、いくつか分からない部分はある。だが、ほとんどの暴言を書き込むユーザー相手には有効な手段だろう。


 しかし、俺の個人情報を書き込んだ相手に対してだけはそうもいかない。

 不明な部分。特にブロックした事実が伝わるのかどうかによっては、逆上した相手が直接、暴力に訴えてくる可能性がある。そうなれば俺だけじゃなく、妻にまで危険が及ぶかもしれない。それだけは避けないと。


 その後もいろいろ調べた所で、動画サイトの外、現実で俺のことを知っている誰かというのが一番の問題だと認識するに至った。

 つまりは、動画サイトの機能でどうにかなる問題ではない。


 それに気づいてからは、動画サイトの機能を調べるのはやめた。

 代わりに調べるのは、ネット全般での誹謗中傷、名誉棄損、それにネットストーカーの情報だ。


 調べてみると、最近になってだが、SNSでの書き込みに対して訴訟を起こしたり、賠償金を払わせたりという話が増えているらしい。

 見つけたのは体験談を簡単にまとめたブログ。他にはSNSでこういうことがあったという端的なコメントだ。訴訟の件数やら判例としてまとまっているものは、俺が検索した範囲では見つけられなかった。


 少しでもと情報を集めてみると、誰が、いつ、どんなコメントを書き込んだのかが重要らしい。犯罪の一種と仮定すれば犯行時刻に不在証明だろうか。違う気もする。それともう一つ、情報を取得した日時も必要だそうだ。書き込みを消されて、確認が出来なくなった場合の対応だろうか。

 細かいところはまだよく分かっていないが、証拠が必要だというのは分かる。警察にしろ、弁護士にしろ、相談をするなら先に何があったのかを説明出来なければいけないだろう。


 見たくもないコメントばかりだが、証拠集めとなれば、もう一度確認しないといけない。

 ブロックして、なかったことにも出来ないということだ。

 軽く溜息をついてから、事務的に証拠のスクリーンショットを集めていく。

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