第8話
「やっぱりダメか」
期待していなかったと言ったら嘘になるが、コメントを整理した時点でも、望み薄かなという気はしていた。
自分宛というのを棚に上げてコメントの整理だけをしてみると、これで訴えれるかというのが怪しくなってくる。
いきなり警察に持っていっても話を聞いてくれるかわからない。
調べている中で、いくつか警察に直接持っていったという話も見た。話は聞いてくれるようだが、被害届となると難しいらしい。
だから弁護士に相談してみた。
弁護士に伝手なんてないし、必要な金額もわからない。だから、ネットで見つけた無料相談というのに行ってみた。時間制限があるということなので、証拠のスクリーンショットは全部コンビニで印刷して持っていった。
結果、言われたのは「この証拠で訴訟を起こすのは難しい」ということ。
正確に言えば、勝つのは難しいということだ。暴言と一口に言っても、内容によって大きく違う。相手を委縮させる目的で勝ち負けにこだわらないのであれば、訴訟自体は可能だとも言われたが、訴訟費用は全て持ち出しになるのでお勧めはしないと。
一応、弁護士の名刺はもらってきた。
そこの無料相談は持ち回りでやってるとのことで、次に来ても別の弁護士の可能性のほうが高い、だから先へ進めるのであればこちらへ連絡を、とのことだ。その時は有料になるということも言われた。
営業の一種と言われればそれまでだが、短時間の割にはいろいろと教えてもらえた。やはり知らない分野は、その分野のプロに聞くのが早い。
訴訟の手間、費用対効果、基本的にはブロックして目につかないようにするのが良いのだろう。
それを通り越して、暴言だけでなく、嘘をついて人を貶めるようであれば名誉棄損で訴える。それは嘘が独り歩きして、本当のことだと他人が思い込むからだ。
嘘であることをこちらが同じようにコメントを残しても、他人にはどちらが本当かなんて分からない。そういうときには訴訟からの判決という、分かり易い「事実」が有効になる。
「どうしようか」
名刺を手に独り言。
律儀に暴言を書き込んでくるだけのユーザーは、ブロックでいいだろう。
問題は一つ。
俺のことを知っている誰かの書き込み。
俺にとっては個人情報を握っている怖い相手でも、他のユーザーと同じく訴えるには微妙なコメントでしかない。
片足のことを書き込んではいても、片足なのは事実であり、それだけでは誹謗中傷とは言えない。
近所のスーパーのことを書き込んではいても、俺がそこに買い物をしている事実を指摘しているだけで、それだけでは脅迫とは言えない。
そういうことなんだそうだ。
片足であることが、人格に問題でもあるかのようにを揶揄している。スーパーで買い物しているだけなのに、その店の品位を落としているかのように馬鹿にされる。そういった事実以外の部分が重要になる。
相手を特定して訴訟手続きを行うところまでは、今の暴言でも持っていけるとは思うが、訴訟で十分な損害賠償を得るまでにはいかない。そういうことを、まわりくどく説明された。
いや、待てよ。
別に俺としても訴えることが重要ではない。
一方的に知られているのが問題なんだ。
どこの誰が書いているのかが分かれば、もう少しやりようはあるか。
元の職場の誰かだとしたら、名前さえ分かれば顔も思い出せる。少なくとも一方的に言われっぱなしになることはなくなる。前の職場の誰かを通して圧力をかけることも出来るかもしれない。
少し希望が出て来た。
時計を見ると、そろそろ妻が帰ってくる時間だ。
夕食の準備をしなければ。
妻には心配をかけないように、弁護士に相談に行くのは伝えていない。バレないようにいつも通りに振る舞おう。バレたらいつもの「無理はしないで」が始まってしまう。
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