序章 第2話 生き残る手段③
手も口も、下の方もスッキリすれば、栄養を手に入れ頭の回転も早くなったのか、ある閃きが頭に湧き出る。
(そういえば母ちゃんや、姉ちゃんはどうしてるんだ?)
剛は決して家族と仲が悪い訳では無く、世間一般に言えば寧ろその逆。
日本が終わるというのに家族の事が思い出されなかったのは剛が楽天的な性格故なのか、それとも単に突然言い渡された余命宣告に現実味を感じられなかったのかは本人でも分からない事だろう。
忘れていたモノは、忘れていたのだ。
音楽を流し続けるスマホを取り出し無料通話アプリを開くものの、見たことのないメッセージに二度見をしてしまう。
『接続に失敗しました』
そんな馬鹿なと一旦アプリを終了しメイン画面を確認するものの圏外とは表示されておらず、Wi-Fiの接続を示す扇型のマークと共に4本の黒棒があり電波は良好だと表している。
「はて?」と不思議に思いながらももう一度アプリを開いてみるものの、やはり同じメッセージが表示されるのみだ。 いつもやっているゲームを開いても似たような表示が出て来るのみでネットですら開けられない。
それならばとアプリを介さず電話をかけてみたのだが、何度ボタンを押しても「電波がない」と言われるのみで一向にかかる気配が無い。
「マジか……」
思い出してしまえば心配になるが人の心と言うもので、電波はあれど繋がらない電話に イラッ とするがその感情をぶつける先は無い。
苛々を飲み込む為にサンドイッチを口に放り込むと、再び通りかかったコンビニの前でそう言えばと足を止めた。
これから向かうシェルターに入れば120日は出られないと放送の男は言っていた。
自ら進んで向かうとは言え、ほぼ軟禁状態では暇を持て余すだろう。
スマホがあれば暇など無いと言えるのだが、電波が無いと吐かすスマホなどただの時計にしかならず役に立ちそうにない。
それならばと荷物が重くなるのを覚悟で、オニギリ三個とサンドイッチにデザートを食して空いたスペースに特に興味もなかった旅行雑誌とファッション雑誌を詰め込んだ。
「金、足りる……よな?」
今更ながらに気にはなったが「大丈夫ですよ〜」との返事を返してくれる者は居ない。
さっきより静かになったロビーの様子が気になり覗き込んで見れば、見える範囲に人が居ないではないか。
「やっべっ!」
“死にたく無い” と強く思う訳ではなかったが、選択を迫られたので “死ぬのが怖い” を理由にシェルターに行く事を決めた剛。
余裕をこいていた所為で一人置いて行かれて焦りを感じると、すぐ近くのエスカレーターを駆け下り、人の波が向かっていた病院の奥へと走り出したのだった。
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