序章 第3話 滅亡の回避①
人気の無い病院の廊下は、例え灯りが点いていようとも何となく怖い気がする。
映画ではよくこんなシチュエーションでゾンビなどが飛び出してきて餌食となる、そんなシーンが脳裏を横切り ゾクゾク としたものが背中を這い上がった。
己のカンだけを頼りに病院内を走って行けば ゾロゾロ と歩くゾンビ……いや、人の列を発見する事が出来た。
《放射線治療 管理センター》
ようやく最後尾に追い付いたのに ホッ と一息吐く間も無く、入っちゃいけない感じの漂う看板が掲げられた扉の中へと飲み込まれて行く人の波。
核シェルターなどと公表されていない物を隠すにはうってつけの部屋だとは思ったものの、なんとなく忌避したくなる “放射線” の文字に尻込みして立ち止まった。
「今ならまだ引き返せます。 悩む時間はそんなにありませんが、どうされますか?」
ドアガールの如く入り口の脇に立って
推定年齢45歳、ベテランの風格漂う女性の落ち着いた声に背中を押され止まっていた足を動かし始めれば、短い階段を降りた先に待っていたのは緩やかに傾斜する動く歩道だった。
通路には誰も居ないことを確認したベテラン看護師がこれで締め切りとばかりに扉を閉めると、等間隔に点いている僅かな光を残して辺りが暗闇に包まれる。
「全員降下開始しました。 第一層の隔壁を閉めて下さい」
剛の後で動く歩道に乗ったベテラン看護師が意味深な事を喋り始めたので振り返ってみると、暗闇の中で幾つもの小さな光を灯した何かが動いてはいるが、目が慣れない剛にはそれが何なのかまでは分からなかった。
病院の内で人の往来の激しい1階にありながら建設以来10年もの間、噂すら流れなかった秘密の扉は、掲げられた看板の力が大きく関わっていたのだろう。
人の出入りの極めて少ない一室、厚さ二メートルの分厚い床をスライドさせることで口を開けていたのは、地表0メートルから緩やかに下る直径三メートルの地下へと続く長いトンネル。
ベルトコンベアーに乗り暫くの時間をかけて運ばれた先は、幾つものダウンライトで照らされているものの明るいとは言えない広い空間だ。
天井までの高さは2.5mと高くはないが学校の体育館より広い250㎡の空間に押し込められた人々は、今しがた降りてきたのとは反対側にあるゲートの手前で健康チェックが行われ、螺旋状に下るベルトコンベアーに乗り地下150メートルにある核シェルターへ向かう事となる。
電車の改札のような三本のゲートの前には二人の看護師がそれぞれ立っており、前の人を倣って文句も言わずに並んだ人達が看護師の持つ小さなドライヤーの様な機械を顔に近付けられている。
隣で待つ看護師が左腕に数字の判子を押せばようやくゲートを抜けられる様で、改札であればICカードをかざす場所に手を置くと ピッ という電子音と共にゲートに取り付けられたシグナルタワーが赤から緑へと変わる。
剛も例に漏れずチェックを終えると、横から飛び出す三本の銀色の棒を押して回転させゲートを通り抜けた。
『554』
再び薄暗いトンネルを下る中、先程押された指二本ほどの大きさの判子を見ればゾロ目まで後一歩の番号。
「後ろの方達は説明を聞くことが出来ませんでしたが、その番号はシェルターに入った方々の健康状態を管理する為のものです。 貴方が最後でしたので私達を含めて収容された人数は全部で554名と言うことですね。
その先の事は分かりませんが、これからここにいる四ヶ月の間は私共がしっかり健康管理させて頂きますのでご協力お願いしますね」
「惜しい!」などと判子を見ていれば不審がっているように見えたのだろう。
声を掛けてきたのはさっきも最後尾にいたベテラン看護師で、その背後には検査機と判子を持った看護師達を従えている。
「私共も当然ありますよ」と腕を捲り見せてきたのは『4』と押された判子。
あまり縁起の良くないと言われる数字に特に返す言葉も思い浮かばず「そうですか」と答えると、会話から逃げる様に前を向いた。 それは人とのコミュニケーションを苦手とする剛の常套手段だった。
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