序章 第2話 生き残る手段②

 コンビニのほど近くには買った物を食べる為のテーブルと椅子とが何セットか用意されている。

 その内の一つに腰掛け、手に入れたばかりのおにぎりを取り出すと手順に従い包装紙を外して齧り付いた。



 パリッ!



 乾いた海苔の割れる音が響き、口の中にお待ちかねの味が広がる。

 具材としてはど定番の昆布が一番なのだが、剛が好きなのはこのおにぎりの米の味だった。


 文字通り至福の時を噛み締めていると、テーブル席から見渡せるロビーに居た人が減っているのが目に見えて分かる。

 ここには最早用がないと悟った人達が家に帰ったのか、安全な場所を求めて移動したのだろう。


 しかし世界中の核ミサイルが降ると言う日本の何処に行けば安全な場所が存在するのだろう。

 世界が日本を切り捨てたのだ、海にでも出ない限り安全などは無いだろう。 もっともその海とて安全とは言い切れないのだが……



 ピ〜ン、ポ〜ン、パ〜〜ンッ



 突然、病院内に響き渡る館内放送を知らせる音。 こんな時に何を言うのかと興味を惹かれて片方のイヤホンを外せば、タイミング良く喋り出した男の声が耳に入ってくる。


⦅職員、並びに患者様を含め、当病院にみえる全ての方にお知らせします。


 先程テレビを通じて出されました国連の決定事項は紛れもなく事実であり、後1時間程で日本を壊滅させるだけの核ミサイルが到着するようです。


 しかし幸いな事に当病院の地下には核シェルターを完備しております。


 このシェルターの収容人数は750名、今、院内に居る全ての方を収容するに十分な広さがあり、非常用の食料、水も確保出来ております。


 しかしながら核攻撃に晒された土地に放射線が残る事はご存知の通りで、安全を見越しての90日に加えてもう一月、つまり120日もの長い間地上に出ることは出来ず、シェルターでの生活を送る事となります。


 ですからその事を容認し、集団生活に協力出来る方のみ受け入れを認めるものとします。


 また、今、難を逃れようとも、その後の未来を想定する限りとてもではありませんが光を見出だす事は出来ません。

 その事を十分留意し、この場に残り消え行く母国と運命を共にするのか、シェルターに移り先の見えない未来にしがみ付くのかを選択して下さい。


 最後に……医療に携わる者として誠に心苦しくは御座いますが、当病院に入院しているしていないに関係なく健康上の観点から120日のシェルター生活が困難だと判断させて頂いた方に関しましては、他の方の生存を優先しシェルターに入る事が出来ませんので何卒ご了承下さい。


 シェルター内には十分な医療機器が無く、今受けられているのと同じ治療は出来ないのです。

 命を救う立場として、命の取捨をせざるを得ない事をお許しください。


 これより係りの者が避難される方をご案内致します。

 移動する時間は十分御座いますが、我先にと混乱されますと全ての方が避難する事が出来なくなります。 お気持ちは察しますが、規律ある大人としての行動で速やかに避難をお願いします⦆


 再び鳴った放送のチャイムが終わると、それを待っていた看護師さんの声がロビーに響き渡る。


 放送に注意が集まっていた事もあり、静かだったロビーに良く通る女性の声。 それに従い動き始めたのはその場に居合わせた全ての人達だった。


 剛はと言えば、3つ目のオニギリを味わい飲み込んだところ。

 お茶のペットボトルを開け喉を潤すと、まだ小腹が空いていると訴える腹に従いデザートにと持ってきた季節外れの苺のケーキを一口の元に口に押し込んだ。


 普段はしない贅沢な食べ方に、手はおろか口の周りもベタベタになり、ついでにトイレに行ってからシェルターに向かおうと立ち上がり用を足しに行った。

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