第一章 第3話 初めての食堂①

 持っていた鞄を机へと放り投げ、身体の要望に従いベッドにダイブすれば、ものの数秒で意識が刈り取られ眠りの世界へと誘われる。


 程良く反発するスプリングマットに清潔な白いシーツ、その上に置かれたふかふかの羽毛布団を下敷きにすれば暖かく包み込まれて寝心地も良く、慣れないことに緊張の連続だったたけるの身体を癒すのに十分な効果を発揮した。



 ピピピッ ピピピッ ピピピッ



「んぁ……?」


 電子音で顔を上げると微睡む意識の中にAM8:00の表示が飛び込んで来る。


(やっべ! 遅刻!!)


 慌てて飛び起きるもののいつもとは違う真っ白な壁紙に昨日の夜に起こった出来事が思い出されて動きが止まった。


(そうか……学校、行かなくてもいいんだ)


 一度たりとも “行きたい” と思えなかった学校、されど “行けない” となると何となく寂しく思えて来るから人間の心とは不思議なものだ。 習慣とはそういったモノで、突然奪われると物足りなさを感じてしまうのだろう。


 朝9時までに朝食を取れとは言われているが、それよりもシャワーを浴びたいし、着替えもしたい。


 怠さを訴える身体に力を入れ「そう言えば……」と思い起こされた日課の筋トレをサボった事を思い出しながら起き上がると、扉の隣にあるチップリーダーに左手をかざした。



 シュゥゥゥゥンッ



 アニメに出てきそうな近未来的な効果音を出しながら扉が開けば、合わせ目に青いラインの入った白色のガウンタイプの病衣を着て、頭にかけたタオルを擦る男がいる。


 ボディビルダーのようにムキムキの筋肉ダルマでは無いにしても、ラフに羽織られた服からは鍛え抜かれた筋肉が顔を覗かせ、筋トレを欠かす事のなかった剛の目を奪うには十分な肉体美であった事は間違いない。


「よぉ、起きたか。 ついでにお前の服も持って来てやったんだけどよ、サイズはLでいいよな? タオルも持ってきたからさっさとシャワー浴びて飯行かねぇと変態幼女に怒られるぜ?」


 既に朝食は摂ったと言う克之かつゆきだったが、何がそうさせるのか、剛と真逆のバリバリのヤンキーの癖に妙に気が利き、下着に服にタオルにと剛の為にわざわざ用意してくれた事に首を傾げてしまう。


「ダチはみんな “克之” とか “克ちゃん” って呼んでた、まぁ好きなように呼んでくれ。

 そう言えばお前、名前何て言うんだ?」


 つい何時間か前に言われた事が思い起こされ、友達だから気を遣ってくれたのかと合点が行くと、その時感じた嬉しさが再燃を始める。


「ぼ、僕は神宮寺 剛。 よろしく、か、かかかか克之君」

「君なんて付けんな、気持ちわりぃ」


「か、克之……さん?」

「てめぇ、シバクぞ、おい…… 後輩かっ」


「よ、よろしく……か、克之……」

「おぅっ、よろしくな、剛」




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