第4話 職場体験
工場内に入ると想像通りに室内は暗く、埃まみれで、加工に使ったと思われる機械には錆や埃で汚れている。
何年も放置されていたからか、あらゆる所にものが散乱していた。
構えも取らずにアイは早々と先を進んでいく、すると、
「待ってたぜ〜。APSUのクソッタレさんよ〜。」
目の前にあるコンテナのような箱の上に男がしゃがんでいた。長いボサボサの髪で、白い長袖のシャツにジーパンを履いていた。右手には拳銃が握られ、顔には悲しみの表情をした仮面がついていた。
「あら、私たちが来るのを待ってたの?ごめんなさいねぇ。待たせちゃって。でもわざわざ高い所にのぼっているなんてお猿さんかしら?」
「くひひひ。言うねぇ。けどよぉ。これを見てもまだそんな口が言えるかい?」
男が指を鳴らすとどこからやってきたのか機械の裏や箱の裏、なんと、先程アイが通ってきた場所からも数人が顔を出した。
その誰もが顔に仮面をつけ、手にはマシンガンや拳銃をもち、こちらへ向けていた。
「悪いことは言わねぇよ、お嬢ちゃん。降伏すりゃあんたの命だけは保障してやるよ。」
アイの頭の中でなにかが切れる音がした。実を言うとアイは自分の身長にコンプレックスを持っており、148cmという小さすぎる身長によって日常生活にも影響があり、アイは26歳なのだがこの身長で酒の席の際に店員にとめられることや、映画を見る際に学割でいけたり(これはちょっとありがたい気もする)、こうして世間的に言う『大人』として見られないため、彼女の前で『身長』に関係する話は虎の尾を踏む行為だ。
そして、あの男が言った言葉もそれに当てはまる。
「その心配はないわ。あなたは...立ち位置的にここのリーダー格ね。あなたは生かしといてあげる。聞きたいことがあるしね。けど、その他は要らないわね。いらないから殺してあげる。」
アイが銃を抜き、構える。
「おいおい、マジで言ってんのかよ?こりゃすげぇや。この数を前にそんな態度できるなんて脱帽だよ。お前ら!あの嬢ちゃんは蜂の巣をご指名だ。やってやんな。」
コンテナの上にいる男がそう言ってどこかへと消えると周りにいたファントム達が銃をこちらへ構え直す。
(数はあの男を抜いて22人...替えのマガジン要らなかったなぁ...ま、備えておいて損は無いけど)
落ち着いた様子でアイは見回す。
(っていうか銃を持って円形に囲むとかどんな素人なのよ。少し考えれば危険だと分かるのに...こんなの初めてだわ)
そう考えていると周りのファントムが一斉にアイに向けて中を発砲した。はじける火薬の音と共に、アイに向かって10数発の弾丸が弾け飛んだ。
しかしそれら全てはアイには当たらず、かえって向かい側にいる味方に当たるという始末だ。
少し考えれば分かることなのだが彼らにはそこに至るまでの脳がないらしい。
そしてアイは人間離れの跳躍で工場の天井に張り付いた。
(力を持っても持ち主がこんなのじゃドブに捨ててるものね。)
アイは天井から手を離し、降下しながらファントムへと発砲した。相手の銃弾は全て外れたのに対してアイが撃った銃弾は全て命中。しかも当たった箇所は頭や胸といった確実に急所を狙ったもので撃たれたものはすぐに絶命した。
これにより数が半分以下になったがまだ敵には戦意がある。
「おい、あれをなげろ!」
誰かがそういったのとほぼ同時に何かがアイの近くに投げ込まれた。
(これは...手榴弾...!)
いち早く気づいたアイは後ろへと飛んだ。しかし、思っていたものと違い、手榴弾は眩い光と耳をつんざく高音を発した。
(
ファントム達はこれを知っているため目と耳を塞ぎ、二次被害を防いだ。しかし、これを予想してなかったアイは距離を取ったため耳は何とか無事だが、爆発による閃光を直視してしまった。
「よし!お前ら!今のうちにあいつを撃ち殺すぞ!」
ファントム達が今が好機とばかりに残ったもの達が物陰から飛び出した。
そして、つぎの瞬間には彼らの頭には冷たい風穴が空いていた。
「は?」
リーダー格の男は理解が出来なかった。始まりの方こそは色々と問題はあったがそのあとの行動に関しては失敗はなかったはず。閃光弾で目と耳を封じ、その際に片をつける。単純だが、室内においてはかなり効果がある戦法である。しかも、あの女に至っては閃光弾であるのことに気づいていない様子だった。これで食らっていないはずがない。
あの女の周りには遮蔽物となるものは確か、なかったはず、それでいて目が潰れないはずがない。
なのに、なのに!この女はまるで何事も無かったかのようにしている。この女はこの場にいる仲間を1人残らず撃ち殺している。
本当に同じファントムなのか?
「もしかして私が何も受けていないと思ってる?安心してちゃんと効いてるわよ。」
女はポンポンと耳を叩き、アピールをする。皮肉を込めて、大袈裟に。
「くっそがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は拳銃を突きつけた。この至近距離。女とは片腕1本離れたぐらいの距離。これで外すことはありえない。これで女が反応して良けれるはずがない。せめて、1人だけでもと俺は引き金を引いた。
全弾打ち尽くすまで引き金を引き続けた。しかし、全て当たることは無かった。外したわけではない。この女が避けたのだ。
「これで満足?」
女はため息混じりにそう言うと、俺の首根っこを掴み叩き押えた。
「てめえ!なんだよ、それ!」
俺はもうどう言えばいいか分からなかった。確かにファントムになると身体能力などは向上する。だが、ここまで差が出るほどの向上幅があるのか?確か、その人の運動能力によって多少変わるとは聞いたがここまで変わるものなのか?
もはや自暴自棄に近い状態の俺に女は
「さてと、どういうことか理解していないあなたのために答え合わせをしましょう。私の名は『
「は?なんだよそれ、反則だろうが!」
「さぁ?私はあまりこの能力はいいとは思わないけどね。さて、あなたみたいなのじゃこんな数のファントムをまとめ切れるわけないわ。だれか後ろにいるでしょ?...たとえば《マザー》とか?」
「あ?マザー?なんだよお前の母ちゃんがどうしたんだ。」
「ふざけないで。」
「へへ。あぁ知ってるぜ。なんせ俺たちのスポンサーだからな?」
「っ!!!そいつは今どこにいる!!!」
「そうだなぁ…お前の後ろとか?」
「なっ!!!!」
_____その一方___________
「なぁ、やっぱり俺たちも中に入って加勢しようぜ。」
「ン?やめとけやめとけ。あいつが一人でやるって言ってるんだ。むやみに行ったら怒られるって…あぁ…話聞かないで行きやがった。」
比莎士は呆けて答えているタンクの言葉を聞かず一人で廃工場内へと入っていった。
THE・PHANTOM 黄田毅 @kida100
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