66話 回復
この世界は糞だ。
捕らわれの鳥である私が自由に暴れられるのは、
一歩籠から出れば、私には何の力もない。
だから私は全てを思い通りに出来ないこの世界が、疎ましくて疎ましくて仕方がなかった。
だが喚いても仕方がない。
せめて鳥籠の中の自由だけで我慢しようとしていた私の前に、あの男が現れる。
ガルガーノ。
大賢者と呼ばれる男だ。
ガルガーノはあろう事か、鳥籠の中にいる私の
あの時は本当に腸の煮えくり返るような思いだった。
だがそれももう許そう。
何故なら、私は手に入れるから。
彼のお陰で世界のすべてを。
「ほらほらどうしたの!」
槍を生み出し、次々と投擲してやる。
それらを必死な形相で、裏切った人形二体が受け止めた。
良い表情だ。
私を裏切った報いは存分に受けて貰う。
だがまあ、この辺りが潮時だろう。
もっと楽しみたい気持ちはあるが、もうそろそろ1分程経過する。
仮にガルガーノが全快しても冥界の力がない以上、私が負ける可能性は低いが、それでも面倒な事にはなる筈。
だからそろそろ遊びは終いにしよう。
「ふふふ。さてこれで終わりにさせて貰うわよ」
槍を四本同時に生み出す。
私の両腕と、そして今や私の下半身となった魔王の両腕を使い、二人に向かって同時に投げつけた。
一本一本でもぎりぎりだったのだ当然受けきれる訳などなく、二人は大きく弾け飛んだ。
此処でガルガーノに向かって槍を投げれば終わりだけど、それでは流石につまらないわね。
先ずは人形二体を壊す。
仲間が無駄死にしていくその姿を、ガルガーノに見せつけてあげるとしましょう。
私は跳躍し、倒れた
首を刎ねるか……いえ、それよりも縦に真っ二つにしてあげた方が面白そうね。
私は冥界の力で剣を生み出し、振り上げた。
イナバは必死に立ちあがり、斧を手に私を睨みつける。
だが無駄だ。
力の差は圧倒的、斧を弾いて真っ二つでエンドよ。
「さようなら、お馬鹿な人形さん」
「舐めるな!」
イナバが斧に巻き付いた赤い布を引きちぎった。
途端、彼女の中から黒い波動が膨れ上がり、その目が赤く輝く。
斧の封印を解いて、狂戦士化で対抗しようという腹積もりなのだろう。
「笑わせないで!その程度!」
私は剣を振り下ろした。
如何にパワーアップしようとも、魔王である私の敵ではない。
「ぐぅぅ……」
斧を弾き飛ばすつもりだったが、辛うじて受け止められるてしまう。
受けたイナバは床に膝を付き、鬼の形相で私を睨む。
「そんな怖い顔で睨んだって無駄よ」
私は力を籠め、斧に受け止められている剣を無理やり振り抜いた。
イナバは吹き飛び、手から離れた斧は地面を転がる。
全く無駄な手間をかけさせててくれるものだ。
「今度こそさよならよ」
倒れているイナバに剣を振り上げ、そして――
「ラキア!」
振り下ろすよりも早く、人影が私の視界を遮る。
突然現れたそれは、予想だにしなかった人物の姿だった。
「んなっ!?ガルガーノ!」
ガルガーノの拳が私の顔面を捕えた。
凄まじい衝撃と共に、私は吹き飛ばされる。
「あり得ないわ。まだ一分ちょっとしかたっていないのよ」
我が目を疑いたくなる。
だがそれは間違いなくガルガーノの姿だった。
「あの傷がそんな短時間で……」
私が彼の体から出る際付けた傷は、限りなく致命傷に近いものだ。
放っておけば直に死んでしまうレベルの。
それをたった一分程で回復するなどありえない。
リーンは5分でと寝言をほざいていたが、それですら条件としては無茶な物だった。
それが何故……
「自分で回復させたからな」
「自分で回復?魔力はどうしたっていうのよ!?」
ガルガーノの魔力は残り少なかった筈。
彼の体内に潜んでいた居た私はそれをよく理解している。
あの魔力残量で高速回復などありえない。
「リーンから譲り受けた」
回復魔法をかけて貰うのではなく、魔力を譲り受けて自らで回復したと言うの?
だがそれにしたって早すぎる。
幾らなんでもこの短時間で回復なんて……
「だからってこんな短時間で回復が間に合う訳ない」
「ラキア、大賢者を舐めるなよ」
そう言うとガルガーノは拳を構え、鋭い眼光で私を射抜く。
私は本能からくる恐怖に、思わず一歩退いてしまう。
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