65話 仲間

「セイクリッド・ウェーブ!」


聖なる波動がラキアを弾き、後退させる。

背後を振り返ると、そこにはリーンの姿があった。


≪近くに来てたみたいだから!私が皆を呼んだの!偉いでしょ!≫


「何故ここにお前達が……」


「当然、前回操られた失態を取り返す為さ。あんたが魔王討伐に向かうのは分かってたからね」


そう言うとイナバか快活に笑い、俺に親指を立てて見せる。

レイラもその言葉に頷いた。


「私は只の偵察だったのですが……放置できない相手の波動を感じたので」


リーンの視線はラキアに釘付けだった。

どうやら自分が作られたものだと言う事を、どうやってか彼女は知っている様だ。


「そうか……来てくれたのか。だが――」


状況が絶望的なのは変わりなかった。

何故なら、彼女達はラキアに支配される存在なのだから。


「あらあら、ママのお手伝いに来てくれたのかしら?」


「御冗談を。貴方の様な醜く邪悪な者に従うつもりは御座いません」


リーンは強く返す。

無策の精神論でどうにか出来るとは思えない。

何か策でもあるというのだろうか?


「あらそう?じゃあ試してみましょう」


そう言ってラキアが手を叩こうとする。


「レイラさん!」


「分かってる!」


リーンの言葉に応え、レイラが腰に差していた剣を引き抜いた。

それはブレイブの持っていた聖剣。

ブレイブソードだった。


邪悪な波動が一切感じない事から、宝玉は外されているのだろう。

その剣をレイラが掲げた瞬間、刀身から聖なる波動が放たれた。

それに合わせてリーンが魔法を詠唱する。


「サンクチュアリ!」


リーンの魔法が玉座の間を包み込む結界を形成し、その中にブレイブの波動が満ちていく。

ラキアがその様子に首を捻るが、それが何なのか分からずに彼女は手を打ち合わせた。


パーンと乾いた音が響く。

だが――


「どういう事……」


レイラ達には何の変化も起こらず、しっかりとした意識を持ってラキアを睨み付けている。


「ブレイブソードの聖なる波動を利用して、貴方の邪悪な波動を打ち消させて貰いました。もう私達を操る事は出来ませんよ」


ラキアの力は、明らかに邪悪な力だ。

周囲を聖なる力で覆う事で、その力の伝播を阻害したのだろう。

確かにそれならば一時的に支配を無効にできる。


だがブレイブソードはブレイブにしか使えない剣だ。

レイラがどうやって――いや、そうか。

彼女はレイラと、そしてブレイブの細胞を組み合わせて生み出されている。

彼女の中にあるブレイブの細胞に聖剣が反応しているに違いない。


「ふーん、で?それでまさか貴方達で私に勝てるつもりかしら?」


ラキアはにやにやと厭らし表情を浮かべている。

魔王の力は強力だ。

俺がダメージを相当与えたとはいえ、それでも3人が敵う相手ではない。


「レイラさん!イナバさん!10分、いえ5分で良いので時間稼ぎをお願いします。その間に私がガルガーノさんを回復します」


「了解よ」


「時間稼ぎね……それはいいけど、別にあれを倒してしまっても構わないんだろ?」


「そうですね。可能ならお願いします」


イナバはにやりと笑う。

彼女の姿勢はこの状況下にあっても強気だった。

流石は魔族の中でも戦闘種と言われる鬼人族だけある。


「そういう訳で、あんたの相手はあたし達だよ」


イナバとレイラが武器を構える。

実力差を考えれば、5分と言う時間稼ぎは不可能に近い。

だがそれでも、俺は彼女達のその背中を頼もしいと感じていた。


「あっはははははは。私を倒すぅ?あんた達程度じゃ、私を1分押し留める事だって出来やしないわよ。その証拠に」


ラキアが再び槍を生み出し、それを俺に向かって投げつける。

レイラの持つ聖剣と、イナバの持つデビルアクスがそれを迎え撃つ。

だが――


「ぐっ!?」


「――つぅ!?」


何とか槍は弾いたが、衝撃で彼女達の手にした武器が大きく弾け飛ぶ。

当然、それを手にしている彼女達も吹き飛ばされそうになって態勢を崩した。


「ふふふ。さっきのは弱り切っているガルガーノへの止めの一撃だったのよ。それを止めたぐらいで、まさか私の本気の攻撃を防げると思ったんじゃないでしょうね?馬鹿な子達」


ラキアは再び槍を生み出す。

今度は両手に同時にだ。


「くそっ!」


「ガルガーノには指一本触れさせないわ!」


飛んできた二本の槍を彼女達は一本ずつ正面から受け止める。

衝撃によって踏み締めた靴底が床を滑り、彼女達を大きく後退させる。

そのまま体が弾き飛ばされそうになりながらも、二人はなんとか槍を弾き飛ばした。


「あらあら、頑張るわねぇ。でも、後どれくらい持つかしら」


ラキアは楽しげに笑う。

それは愉悦を楽しむ――弱者をいたぶって喜ぶ者の醜い顔だった。


接近戦なら容易く勝負を付けられるにも関わらず、奴は痛めつける事を目的に、槍を生み出して再び投げつける。


だが楽しみに夢中であっても、俺の本格的な回復を許しはしないだろう。

散々いたぶった挙句、回復が終わる前に二人を倒し、そして俺も殺す。

奴はそういう性格の腐った女だ。


だがその性格の悪さが命取りになる。

俺にほんの僅かでも時間を与えた事を、必ず後悔させてやるぞ。


「リーン回復はいい。お前は――」


リーンに指示を出し、俺は魔法を唱えた。


レイラ、イナバ。

少しの間頑張ってくれ。


必死に頑張る二人の背中に心の中で声を掛け。

俺は魔法を発動させた。

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