64話 魔王ラキア
「生きて……いたのか」
「ええ、貴方の中でね」
そう言ってラキアは人差し指と中指を自分の唇に当て、此方に飛ばす仕草をする。
あの時の口付け、何らかの攻撃だとは思っていたが……まさか体内に寄生されていたとは。
「人間を……捨てたのか……」
「人間なんて弱くて寿命の短い存在に固執する意味なんてないでしょ?貴方は冥界の力を破壊に使う事しか興味無かったみたいだけど、この力は素晴らしいわよ。人を捨て、今や私は全てを支配する魔王となったんだもの」
ラキアはうっとりとした表情で天を仰ぎ、大仰に両手を上げる。
俺はその隙に回復魔法を――
「だめ、だあめ」
「がはっ」
だがそれを阻止するかの様に前足――魔王の体が下半身の様になっている――で俺を蹴り飛ばして回復魔法を阻止してくる。
悦に浸ってはいても、回復の隙を与えてはくれない様だ。
「あらあら、辛そうねぇ。まあ内臓を滅茶苦茶にひっかいてあげたから当然か」
ラキアが楽しそうに、俺の周囲をぐるぐると周る。
まるで此方を馬鹿にしたような行動、相変わらずその全てが腹立たしい。
本当に人をイラつかせる女だ。
「ふふふ。本当はその気になればいつでも貴方を殺せたんだけど、様子を見て大正解だったわぁ。たった一人で魔王を追い詰めてくれるなんて……流石ガルガーノよ。私のために、あ・り・が・と・う」
何とか起死回生の手を考える。
だがもはや魔力は枯渇気味。
更に内臓にダメージを与えられた真面に動く事も出来ない。
口惜しいが、完全に打つ手なしだ。
「……」
此処まで来て、またこの女にいい様にされるのか……
そう考えると、怒りで腸が煮えくりかえる様な思いだった。
だが今の俺には憎しみを籠めて睨み付けるのが精一杯だ。
「さて、名残は惜しいけどここでお別れよ。貴方にあんまり時間を与えるのは危険だから、さっさと終わらせて貰うわ」
ラキアの手に黒いオーラが収束される。
最後は自らの手でと言う事だろうが、俺はそれを見て一縷の希望を見出した。
奴が態々頭を近づけてくれるというのなら、最後の力を振り絞ってそのムカつく顔面をぶち砕いてやる。
それで倒せる保証はないが、そこに全てをかける価値はあった。
俺は拳に力を籠め、カウンターを――っ!?
「あら。どうしたの、その表情?ひょっとしてカウンターを仕掛けようとしてたのかしら?でも無駄よぉ。貴方はもう冥界の力が使えないんだからぁ。例えカウンターを決めても、今のボロボロの貴方じゃ神炎の力だけじゃねぇ」
ラキアが口の端を歪めてにたりと笑う。
俺と契約していたのは魔王ガイゼルだ。
だがラキアに体を乗っ取られ、もうその魔王はこの世に存在しない。
供給元が死んでしまった以上、俺にはもう、冥界の力を扱う事が出来なかった。
「いいわぁ……その顔。最高よ」
糞がっ……
俺に希望を持たせ、力が使えないと知らしめて絶望に突き落とす。
その為にラキアは態と、カウンターが狙える様な攻撃を仕掛けようとしたのだ。
俺の絶望する顔を見る為だけに。
「うふふ、最後に凄くいい顔が見れたわ。ガルガーノ、本当に今まで私のためにありがとう。そしてさようなら」
ラキアの眼が赤く輝く。
その右手に邪悪なオーラが纏いつき、槍のような形へ変わる。
それを見て俺はゆっくりと目を瞑り、心の中でリピに謝罪する。
守れなくてすまなかったと。
≪大丈夫だよ!≫
その俺の言葉に、しばらく無言だったリピが元気よく返す。
彼女の言葉には希望が満ちていた。
だがこの状況では……
≪皆を呼んだから!≫
皆?
その言葉の意味が分からなかった俺の耳に、金属のぶつかり合う音が響いた。
おそるおそる目を開くと、ラキアの槍は俺の目前の床を貫いている。
そしてその槍を押さえつけるかの様に、剣と斧が上から重なっていた。
「間に合ったみたいね!」
「待たせたな!」
そこには、レイラとイナバの姿が……
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