61話 魔王ガイゼル

魔王城の地下、長い長い階段を下った先には広大な円形の空間が広がっている。

最奥には巨大な金属の、不気味な意匠が施された扉が付いており。

その先こそが魔王の待つ真の玉座の間となっていた。


「はぁ……はぁ……ふぅ……」


強大な扉を前で静かに息を整える。

地下には無数の悪魔達が蠢いており、その全てを殲滅し終えた俺は一息つく。


周囲は悪魔達の残骸が散乱し、さながら地獄絵図と化していた。

俺そんな中、腰を下ろして瞑想を始める。

少しでも回復する為に。


だがそれは直ぐに中断されてしまう。

扉から邪悪な気配が激しく漏れ出てきたからだ。

休んでないで、さっさと来いと言っているのだろう。


無視してこのまま瞑想を続ければ、扉毎俺を吹き飛ばす攻撃が飛んできかねない。

俺は起き上がり、固く閉ざされた扉に手を付けた。


「やれやれ、休むまもくれないとは。セコイい魔王様だ」


まあ逆の立場だったなら、きっと俺も休む時間など与えなかっただろう。

そう考えるとお互い様ともいえる。


「ムバカア!」


最後の扉を開錠し、中に入る。

外の広い空間は只地中を刳り貫いただけの様な物だったが、扉の中は謁見の間を思わせる造りをしていた。

黒い柱が並び、中央には赤いじゅうたんが敷かれている。


俺はその絨毯の上を、真っすぐに奥へ進む。

玉座の間で踏ん反り返る魔王の元へと真っすぐに。


「よく来たな。大賢者ガルガーノ。歓迎するぞ」


「歓迎序でにガイゼル、あんたの首が頂きたいんだが」


「ふふふ、随分と欲張りな大賢者殿だな。だがこの首はやれん。代わりに貴様の首を、新生魔王の旗印に掲げてやろう。喜ぶがいい」


生首を旗印か。

普通なら悪趣味極まりない行動だが、それが魔王なら寧ろ自然に感じるな。


「ガルガーノ。私はお前に感謝しているんだぞ?流石の私も、お前達のパーティーと戦って勝つのは難しかった。だがお前が邪魔者達を始末してくれたばかりか、私のために穴まで広げてくれた。お陰で容易くこの世界を地獄に変える事が出来る。ありがとう。ガルガーノ」


「礼を言うにはまだ早いんじゃないか?お前は直ぐにとんぼ返りする事になるんだ。お前自身の力でな」


俺は拳を構え、力を巡らせた。

冥界の力は問題なく使える。

何故ならこれは契約によって結ばれた力だからだ。

例えその力が自身に向けられても契約がある以上、止める事は出来ない。


「微々たるものだ。それ位ハンデとしては丁度いい」


魔王が口元をにやりと歪めた。

実際この力があっても、魔王と俺とでは大きな隔たりがある。

奴が余裕の態度なのも当然の事だ。


かつて戦った際は、ブレイブとイナバが前衛として奴の動きを押さえ。

レイラがそのスピードを生かして攪乱かくらんし。

魔王の放つ冥界の力をリーンの結界魔法で中和。

俺が消耗した味方の回復をしつつ攻撃魔法という戦術で勝利を収めている。


信頼関係は兎も角、間違いなく最強のチームだった。

魔王が逃げ出したくなる程に。


「果たしてお前ひとりで、どこまで私と戦えるかな?」


俺は新たな力を得て、更に魔法も取り戻している。

今の俺は、かつての仲間の誰よりも強い。


だが一人で出来る事はどうしても限られる。

特に魔法は誰かの力を借りてこそ、その真価を発揮する力だ。

単独ではほとんど活かせない。


「最初に言っておくが、大魔法を唱える隙などは与えんよ。特にあのジ・エンドと言う魔法は、受ければ私でも只では済まないからな 」


魔王には弱い魔法ではダメージは通らず。

ダメージを通せる程の強力な魔法を放つには、長い詠唱と高い集中力が必要となる。

その為強力であればある程、ほんの少しの妨害で魔法は破綻してしまう。

魔王もその辺りはよく理解しているので、宣言通り強力魔法を撃つ隙は決して与えてはくれないだろう。


だが俺が勝つためには、強力な魔法の発動が必要不可欠だ。


此処まで出来る限り魔力は温存しては来た。

全ては全力の最強魔法ジ・エンドを叩き込むため。

それを打ち込む隙を作り出せるかどうか――それのみが、俺の唯一の勝機だ。


「さて、では始めようか」


魔王が玉座からゆっくりと立ち上がる。

その身の丈は2メートルを超え、玉座に座る為に畳まれていた背中の翼が大きく開かれた。


俺は拳を握りしめ構える。

勝っても負けても、これが俺にとっての最後の戦いになるだろう。


「魔王、俺はお前を倒す」


「儚き願いだな、散るがいい!」


俺は勝つ!

勝って全ての決着を付ける!

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