60話 魔王城②
「チェインライトニング」
周囲に電撃が走り、その場にいる悪魔達を吹き飛ばす。
「結構頑丈だな」
3階に上がると強大なイノシシ共が狂った様に襲い掛かって来た。
勿論只のイノシシではない。
体毛は殆ど生えておらず、皮膚は黒く、全身から謎の液体がどろどろと噴き出している。
更に背中には不気味な青い触手が大量に蠢いていおり、ビジュアル的に不快指数マックスの悪魔だった。
俺はそいつらに向かって広範囲の電撃魔法を喰らわせてやったのだが、その一撃だけでは倒すには至らず、イノシシ達は周囲に体液を飛ばしながら起き上がって来る。
「やれやれ。魔力は温存したいんだが、殴り倒すと体液でびしょびしょになりそうだな」
冥界の瞳で確認する限り、毒物ではない様だが、殴って全身悪魔の体液塗れになるのは精神衛生上避けたい所。
仕方がないので、もう一度魔法で攻撃する事にする。
今度はもっと強力な魔法を使って。
「ヘルズライトニング!」
青い閃光が走り、視界を青一色に染める。
俺の扱う電撃系最強の魔法だ。
魔力はそこそこ使ってしまったが、それに見合うだけの成果をこの魔法は残す。
悪魔達は完全に炭と化し、灰となって崩れて行った。
「3階の反応はもうないな」
どうやら俺を倒すために、悪魔達は階段付近に集合していた様だ。
俺は奥の階段を進み、上へと昇る。
4階が最上階だ。
「ドラゴン……」
最上階は区切りが無く、1つのフロアだけしかない。
その広い空間の真ん中には、黒いドラゴンが寝そべっていた。
その瞳は一つしかなく。
赤く輝くそれは、俺の方へと向いている。
「あの時と同じか」
かつてこの城に来た時も、此処にはまったく同じドラゴンが配備されていた。
そのドラゴンを見てブレイブが「竜退治は勇者の仕事だ」と言って、一人で討伐したのを思い出す。
確かに、物語では勇者がドラゴンを倒すのが定番ではあった。
だが冷静に考えてみれば、この世界にドラゴンなどという物は存在していない。
いるのはあくまでも御伽噺の中でのみだ。
つまりあの時倒したドラゴンは、魔王が呼び出した只のドラゴンに似た悪魔だったと言う訳だ。
「ふ。地獄であったら、お前はドラゴンスレイヤーでも何でもなかったと言ってやるとするか」
俺が天国に行けるとは思えない。
もしあの世があるなら、きっとブレイブたちと同じ地獄行きだろう。
俺が一歩前に踏み出すと、ドラゴンは起き上がり戦闘態勢に入った。
大きく口を開け、そこから黒い炎が吐き出される。
俺は跳躍し、天井に張り付く形でそれを躱す。
勿論ヤモリではないので張り付くのには魔法を使っている。
そのまま天井を強く蹴り、奴に向かって突っ込んだ。
狙うは奴の単眼――ではない。
一見弱点はその単眼の様に見えるが、実はここは物凄く硬いのだ。
しかも視力に頼らず此方の動きを把握する能力を持っている為、態々潰しても労力に見合った成果は得られない。
「ぐおぉぉぉぉ!」
ドラゴン咆哮し、突っ込む俺に向かって口を開ける。
そのまま丸飲みにするつもりなのだろう。
だが俺は魔法を使って軌道を変え、それを躱して首の付け根へと飛んだ。
「ここだ!」
首の付け根。
そこにある一枚だけ赤く染まる鱗。
それこそがこの悪魔の弱点だ。
俺は神炎を乗せた抜き手をそこへ叩き込む。
抜き手は鱗を砕き、肉を抉ってその奥にある心臓を貫き通した。
その瞬間悪魔の動きは止まり、ボロボロと灰となって、ゆっくりと崩れちていった。
「初見ならもっと苦労したんだろうがな」
こうも楽に倒せたのは、ブレイブの戦いを見ていたお陰だ。
まあだからと言って、その事で奴に感謝する気は更々ないが。
「悪魔の気配はもうないな」
俺は階段を下りて一回に戻る。
入り口の扉のすぐ前のタイル。
そこには仕掛けが施されており、地下へと進む階段が隠されてある。
勿論見つけたのはレイラだ。
4階まで行って魔王が見つからず、焦っていた俺達に「入って直ぐの所に隠し階段があったから、ひょっとしたらそこかも」と彼女は伝えて来た。
本人はまさかそこが魔王に通じる道だとは思っておらずスルーした様だが、あの時はもっと早く言えよと思ったものだ。
冗談抜きで魔王に逃げられたのかと焦っていたからな。
「少し休憩してから行くか」
床に座って少し瞑想を行う。
俺自身に残された時間が少ないとはいえ、一分一秒を争う程ではない。
それに地上部分に悪魔はもう残っていないのだ。
無理に進むより、休憩してから進んだ方が良いだろう。
理想は全快だが、流石に魔王の城で何時間も呑気に休憩をさせて貰えるとは思わないので、ある程度休憩したら出発するとしよう。
「ふぅ……」
足元が騒がしい。
悪魔達が隠し扉の前で蠢いているのが分かる。
放っておけば、直床から飛び出して来る事だろう。
「行くとするか」
俺はゆっくりと起き上り、軽く柔軟する。
30分程度ではあったが、魔力はそこそこ回復してくれていた。
万全とは言い難いが、まあ良しとしよう。
俺は隠し扉の仕掛けを作動させ、そこから飛び出してくる悪魔達を迎え撃つ。
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