57話 覚悟

リピも――いや、あり得ない。

一瞬疑いを持つが、その考えを振り払う。


他の3人はターゲットであるかつての仲間と敵対していた。

その為、俺が彼女達と接触する可能性は高かった。


だがリピは違う。


彼女はラバンで人攫いに捕らえられていた所を、偶然俺が助け出しただけだ。

ラキアの思惑が介入する余地はない筈。

魔法が止まったのも、レイラとイナバが前衛を放棄して驚いただけに過ぎない。


そもそもリピが本当にラキアの生み出した存在なら、何故彼女はイナバ達と一緒に去らなかった?

つまり只のブラフだと言う事だ。


「戯言だな」


「あら、そう思うの。だったら聞いてみましょう。彼女に。ねぇ貴方。名前はなんていうのかしらぁ?」


「リ、リピだよ」


不釣り合いな猫なで声でラキアが尋ね、その態度にリピが怯えながらも答える。


「ああ、ごめんなさい。出来れば姓付きのフルネームでお願い」


「リピはブレイブ・リピだよ」


その名を聞いた瞬間、信じられない思いで俺は固まり。

リピを凝視する。


「馬鹿な……そんな馬鹿な……リピとはラバンで偶然……」


「うふふ、たまたま絡んできたチンピラ。本当に彼らは偶然絡んできたのかしら?」


俺は絡んできたチンピラから情報を手に入れ、そして誘拐組織の奴らを叩き潰しリピと出会った。

それすらも誘導されていたのか……


「どうしたの?王子様?」


「触るな!」


リピは固まる俺を心配そうに見つめ、肩に触れて来る。

だが俺は嫌悪感から咄嗟にリピを手で弾く。


「きゃっ!?どうして……王子様……」


リピが泣きそうな顔で此方を見て来る。

本当に悲しそうな表情だ。


だがそれも演技なのかもしれない。

あるいは、リピ自身は真実を知らされていない可能性もある。


だが――彼女がラキアの手の物である事には変わりない。


かつての仲間達に裏切られ。

そして気を許しかけた奴らは、全てラキアの手駒だった。


本当に……本当に俺は人を見る目がない。


間抜けすぎて泣きたくなってくるぜ。


「うふふふ、良い顔ねぇ。その顔が見たくって、態とずらしたのよ。一度にやるよりショックが大きいかと思ってね」


糞が……どこまでも性格の腐った女だ。


「さあ、貴方は用済みよ。これから私とガルガーノは楽しいダンスの時間だから、貴方もさっきの二人の所に帰りなさい」


ラキアが手を叩いた。

その瞬間リピの表情が移ろに変わり、どこへともなくふらふらと飛んでいく。


「ああ、そうそう。最後にお礼を言っておこうかしら。私はそれ程大きな力が使えないから、私だけだと何百年もかかる所だったのよ。でも貴方がバンバン力を使って協力してくれたお陰で、じきに魔王様は復活されるわ。ありがとう、ガルガーノ」


魔王が直復活……


確かに、俺は復讐のために多くの力を使ってきた。

だがまさかそこまで進行していようとは。


「でもあれねぇ。魔王召喚による懲役1000年。完全な冤罪だったけど、結果的に貴方のお陰で魔王様はこの世界に返って来る事になった訳だし。これで冤罪でも何でもなくなっちゃったわね」


冤罪ですら無くなる……か。


何故こうなってしまったのだろう?

信頼する仲間達と共に魔王を倒し、輝ける未来が待っている筈だった。


だが仲間達には裏切られ、必死に復讐したら今度は魔王の復活と来た。

自業自得な部分もあるとは言え、全く酷い話だ。

何だか、何もかもどうでも良くなってくる。


だが――俺は直ぐ近くに転がるブレイブの剣を拾う。


「あら、そんな物を拾ってどうする積もり?聖剣の力はブレイブじゃないと使えないのよ?」


確かに。

他の人間がブレイブの剣を手にしたところで、それは只の切れ味のいい硬いだけの剣でしかない。

聖剣の力を引き出せるのはブレイブだけだ。


そう聖剣の力を・・・・・引き出せるのは。


「――っ!?」


剣から黒いオーラが立ち昇る。

思った通りだった。

聖剣に仕込まれた宝玉は、冥界の力に反応する。


「ああ、成程ね。聖剣を魔剣として使うなんて、考えたわね。確かにその剣が当たったら私は大怪我ものよ。でもだから何?そんなボロボロでフラフラな体、しかも剣を持ったせいで魔力が胡散して肉体の強化も儘ならない状態で、それを私に当てられるとでも?」


「当たるさ」


動かない相手に当てる事ぐらい造作も無い。


俺は左足を前に出す構えで、剣を高々と掲げる。

重要なのは切れ味と破壊力だ。

寧ろ肉体強化は邪魔になる。


「面白い。じゃあ見せて貰おうかしら。大賢者様の剣裁きって奴を」


「いいだろう……よく見ていろ。俺の覚悟を」


――そう、必要なのは技術ではない。


――覚悟だ。


俺は掲げた剣を力いっぱい振り下ろした。

迷いなく。

自らの左足へと。

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