51話 決戦
「ブレイブ……」
奴と目が合う。
此処から数キロ離れた地点。
大軍を率い、奴は丘の上に立っていた。
あいつも此方には気づいているだろう。
俺は冥界の力を使ってブレイブを見ているが、奴にそんな物は必要ない。
勇者の眼は遥か上空から落ちて来る、最初の雨粒すらも捕らえる驚異的な視力をしているからだ。
生物として根本的な作りが違う。
それが勇者。
「あの剣……ブレイブめ……」
奴の腰にかけている剣に目が止まる。
ブレイブソード。
それは勇者として、神に選ばれた戦士のみ扱う事を許された聖剣だ。
だが今、その剣からは聖なる波動だけではなく。
同時に邪悪な闇の波動が垣間見える。
どうやら何らかの仕掛けを施している様だ。
「まあ当然か」
俺はかつての仲間達を次々と破って此処まで来ている。
俺の力を警戒し、勝つために何らかの対策を打つのは当然の手段だ。
しかしまさか闇の力に手を染めるとは……勇者も落ちたものだ。
いや、違うな。
初めから奴は勝利の為なら手段を選ばない男だった。
今まではそれをうまく隠してきだけに過ぎない。
そもそもあいつが勇者である事自体が間違いなのだ。
ならば俺が今日、奴に引導を渡し。
不良品を神の元へ送り返してやるとしよう。
「随分怖い顔をしてるわね。ブレイブを見つけたの?」
じっとブレイブを睨んでいると、横からレイラに声を掛けられる。
顔には身分を隠すためにマスクを付けてある。
だから俺の表情は見える分けがないのだが、まあ雰囲気から察したのだろう。
「ああ」
「勝てそうかい?」
「勝つさ」
実質、ブレイブとの戦いが最後の戦いになるだろう。
ラキアなどその気になればいつでも殺せる。
カウントするまでもない。
俺はブレイブを殺し、復讐を遂げる。
遂げて見せる。
「ははっ、さっすがうちの大将だ」
イナバが俺の背中を力強く叩く。
その左手にはデビルアクスが握られている。
訓練の成果で、彼女は封印状態ならもう問題なく斧を扱えるようになっていた。
「リピも頑張ってお手伝いするよ!」
「いや、リピはイナバ達を手伝ってやってくれ」
「えぇー」
場所は見晴らしのいい戦場だ。
リピが傍に居れば、ブレイブは真っ先に彼女を狙うだろう。
そうなれば力どころか、足手纏いになりかねない。
それに――
「俺はブレイブとの勝負に専念する。そうなれば総大将としての仕事を放棄する事になってしまう、俺の抜けた分イナバ達に尽力してやってくれ」
この戦争の魔族側の旗印は俺だ。
ブレイブを倒せれば相手側の士気を落とせるとはいえ、自分勝手な理由で代表を放棄する事には変わりない。
先陣を切るイナバへの負担も大きくなるだろう。
だからリピにはそのサポートを頼む。
「頼む」
「うん……わかった」
リピは少し不満そうだが、渋々承諾してくれる。
後は――
「危険だが、レイラにはリピの護衛を頼まれて欲しい」
リピの魔法はかなり強力だ。
しかも頭を務めるイナバと行動を共にするのだ、敵の的になる可能性は非常に高かい。
だがレイラが傍に付いていてくれれば安心だ。
今の彼女の実力ならリピを問題なく任せられる。
「しょうがないね、任せなよ」
「感謝する」
「代わりに、絶対勝って帰って来なよ」
「勿論だ」
「約束だよー!絶対だよー!」
俺はリピの頭を撫でた。
彼女には大量の借りがある。
それは必ず生きて返す。
「準備はいいかい?」
俺が頷くと、イナバが配下に命じて銅鑼を鳴らさせる。
大気を震わせ、相手の陣地にまで届きそうな程の轟音が鳴り響いた。
戦の合図だ。
俺は仮面を外し、投げ捨てた。
もはや身分を偽る必要は無い。
後はブレイブを殺し、全てを終わらせるのみだ。
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