45話 相棒

「はぁ……はぁ……」


息が上がる……体が重い。

俺とイナバ、お互いの体はもうボロボロだ。


奴と肉弾戦を初めて既に10分以上は経つ。

冥界の力のお陰で終始俺が押している状態ではあるが、奴は中々倒れてはくれない。

想像以上のタフネスで俺の攻撃に耐えやがる。


せめて左足の骨折さえなければ……


さっさと仕掛ければよかった物を、勝手に勝ちを確信して相手に斧を拾わせる隙を与えた自分が呪わしい。


「もう諦めろ。イナバ……」


「くくく……そのざまの男に言われてもな……」


奴の言う通りだ。

もし俺が奴でも同じように返すだろう。


お互い限界いっぱい。

いつどちらが倒れておかしくはない状況だった。


だから最後に聞いておく。

大事な事を。


「イナバ、何故俺を裏切った?」


理由はラキアから聞いてはいる。

イナバが脅されて仕方がなく、等という幻想を抱く積もりも無い。


だだ、俺は俺自身の耳で確認したかった。


勿論どんな理由であろうとも、許す気はないし。

奴を殺す事に変わりはないが。


「この世界を破壊し……俺の世界……居場所を作る為だ」


「俺に……何故相談しなかった……」


「ははは!……俺は魔族と人間とのハーフだ!相談してどうなる!」


イナバが目を見開き、此方を睨みつける。

確かに奴の言う通りだ。

俺が奴の苦悩を取り払い、奴の居場所を作ってやれたかと言われれば、きっと出来なかっただろう。


だからと言って、裏切られ、1000年の投獄に追いやられる謂れはない。


奴の心情を慮れば、同情すべき点はあるだろう。

だがそれ以上に裏切られた怒りが勝る。

ましてやお互いもう引けない所まで来てしまっているのだ。


俺は奴を殺し……復讐を遂げる。


「後悔はしていない……という訳か」


最後にもう一つだけ尋ねる。

奴に罪の意識があるかどうかだ。


「当然だ。俺は俺の目的の為に……全力を尽くしている。そこに後悔など……ない」


全力を尽くす……か。

ならば俺も全力を尽くすとしよう。


「イナバ。お前は俺を裏切った。だから、俺もお前の期待を裏切らせて貰う」


「俺がお前に期待だと?」


そう。

この段に至っても、奴は疑いもしていない。

それはある意味俺への期待と言っていいだろう。


そう、この場には第3者がいて、俺が・・それをりようしない・・・・・・・・・と、奴は勝手に思い込んでいる。

それが期待でなくて何だというのか?


「リピ!魔法で奴を攻撃しろ!」


その言葉を耳にし、イナバとリピ、両方が驚いた様な表情を俺に向ける。


俺の手だけで殺す。

それは確かに優先事項の高い事だ。

だが俺にとって真に優先すべき事は、皆殺しにし、復讐自体を遂げる事だ。

その為なら手段を選ぶつもりはない。


「う、うん。分かった!」


幾ら妖精が強力な魔法を使うとはいえ、普段のイナバにならまるで通じなかっただろう。

だが息も絶え絶えの奴になら、十分通用するはずだ。


「ガルガーノ!」


イナバが吠える。

だが最早、今の俺に正面切って戦ってやる気など皆無だ。


もし奴が少しでも後悔していたなら……その時は最後まで付き合ってやるつもりだった。

奴が良心の呵責を感じていない以上、俺も下らん干渉や良心など捨てる。


それだけだ。


「ぐぉぉぉぉぉぉ!」


リピの放った紅蓮の魔法が奴を包み込む。

妖精はこう見えて、案外容赦のない生き物だ。

もがき苦しむイナバに、彼女は遠慮なく魔法を叩き込み続けた。


愛らしい見た目とは裏腹に、全く頼もしい相棒だ。

彼女は。


「ァぁぁぁぁぁ……」


全身に重度の火傷を負い。

それでもなお、イナバは倒れない。


だがもう限界だろう。

奴はフラフラとよろめき、今にも倒れそうだ。


「止めは俺が」


手を上げてリピを制止した。

ゆっくりと奴に近づき、蹴るふりをする。

フェイントだ。


その瞬間、それに引っ掛かった奴は俺に飛び掛かる。


奴はこの瞬間の為――俺が自らの手で止めを刺す――に、最後の力を残していた。

本当に恐ろしい男だった・・・


さようなら……イナバ……


俺の渾身の蹴りが奴の顔面を捉え、その骨を砕き脳漿のうしょうをぶちまける。

これで残すは2人だ。


「リピ……回復を頼む」


「うん!任せて!王子様!」


満身創痍の俺はその場に倒れ込む。

そんな俺の体を彼女は文句ひとつ言わずに癒してくれる。


リピには借りを作りっぱなしだ。

俺がここまでこれたのは彼女のお陰だった。


王子様……か……


時期復讐は終わる。

妖精と人間で結ばれるなどと、下らん事は出来ん。

だが全てが終わったら、その時は彼女が望むだけ傍に居てやろう。


それが一生でも構わない。

せめてもの恩返しだ。

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