40話 独立
魔族達の集まっている廃墟の扉をノックする。
十秒ほど待ったところで扉が開き、魔族の女が剣を片手に姿を現した。
かなりでかい。
身の丈は2メートルを軽く超えていた。
青い肌に額の角から、それが鬼人であると判断する。
イナバの母親と同じ種だ。
「お前は……大賢者ガルガーノ!?」
魔族の女が俺の顔を見て、一発で俺の正体に気づいた。
魔族に知り合いはいないが、戦場で俺の姿を見た者は少なくない。
彼女もまたそんな者の1人なのだろう。
「なんでこんな所に大賢者が……」
鬼人の女は口を閉ざし、注意深げに俺を観察する。
「お前たちに話が合ってここへやって来た。イナバについてだ」
「人間の世界で裏切り者として投獄されたって聞いてたけど……成程、イナバに復讐に来たって訳ね」
俺は魔王召喚の罪で収監されている。
当然魔族達は魔王を俺が召喚していない事を知っているので、それが真っ赤な濡れ衣である事を知っていた。
その俺が脱獄して魔族領へとやって来ているのだ、その目的が復讐である事は簡単に導き出される答えだろう。
「そうだ。イナバは俺が殺す」
隠す理由はない。
彼らと連携する為にも、俺は自分の目的を直球で答えた。
「あんたに面と向かって言われると、私は生きた心地がしないねぇ」
女魔族は口の端を歪めて笑う。
意図が分からず俺が首を捻ると、女は自分の名を告げた。
「あたしの名はイナバ。鬼人イナバさ」
「!?」
言葉の意味は理解したが……
「驚いたかい?」
「ああ……」
俺はぶっきらぼうに返事を返した。
2人目迄は偶々と片付けられたが、3人連続となると、もはや偶然とはとても思えない。
なんらかの意図が働いている。
そう考えるのが自然だ。
だが誰が?
なんの為に?
その意図が全く思い浮かばない。
何らかの罠かとも考えられるが、俺を罠に嵌めるつもりなら、そもそもこんな分かり易い名を名乗りはしないだろう。
「その名は本名か?」
素直に答えはしないだろうが、相手の反応を伺う事は出来る。
同時に、相手へ此方は警戒しているぞと案に伝える狙いもあった。
警戒を顕わにしておけば、相手も早々不意打ちを仕掛けて来る様な真似は出来ないだろう。
「残念ながら、生来の親から貰った名さ」
「そうか……」
特に嘘を付いている様には感じない。
まあ警戒だけはしておこう。
「こんな所に乗り込んで来たって事は、当然あたしたちの目的は分かってるって考えてもいいんだよね?」
「ああ」
こいつらは近々、イナバに対してクーデターを起こすつもりだ。
だが今の状態を放置すれば、遅かれ早かれ戦争は起こる。
どちらにせよ戦争が起こるのならば、為政者を廃し、彼女達は己の意志で戦う事を選んだのだろう。
俺はそれに便乗して奴を殺す。
「イナバを殺し、お前達を勝利に導いてやる」
戦争にも便乗させて貰う。
俺の最終目標はブレイブの首だ。
王宮に忍び込み、1対1の戦いに持ち込むのはまず不可能だろう。
奴側の人間に妨害されるのは目に見えていた。
だから戦場を利用し、奴をおびき出して始末する。
その為には、魔族側には優勢に事を運んでもらわなければ困るのだ。
劣勢な状態の戦場で奴に挑んでも、こっちが不利になってしまうからな。
その為の手筈として、リーンを通じて教会側の協力も取り付けてある。
連合国では奴隷制度を持つ国も少なくない。
教会はそれを良しとしておらず、散々各国に訴えているが、真面に取り合っている国は少なかった。それは教会の連合に対する影響力がそこまで大きくない事を物語っている。
つまり教会からすれば、負けて連合が弱体化してくれた方が都合がいいと言う訳だ。勿論表立っての協力は得られないが、聖戦ではなく独立戦争として扱う――聖戦扱いになると、教会も戦力を送り込む必要がある――事と、教会の影響力が大きい国に不参加を呼びかける形での助力を得られる予定だ。
「大きく出たねぇ。ま、話半分に聞いておくよ」
そう言うと、イナバは俺を廃墟の中へと案内する。
そこで俺は彼らの作戦を知らされる。
決行は明後日。
首を洗って待っていろ。
イナバ。
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