18話 船上
「駄目か」
足に嵌められている神封石を冥界の力で破壊しようと試みたが、無理だった。
恐らくこれを外すには、俺にこの封印を施した人間に解かせるしかないだろう。
「リーンか」
神封石を施された時の事はよく覚えていない。
ショックで意識が飛んでいたからな。
だがこんな物を扱えるのは、聖女である彼女以外考えられなかった。
「リーンに封印を解かせる……か。まあ無理だろうな」
彼女は神に全てを捧げた神徒だ。
苦痛で言う事を聞かせるのは難しいだろう。
やはり魔法は諦めた方がいい様だ。
「何をしてるの?」
リピがパタパタと羽をはばたかせ、俺の顔を覗き込んだ。
彼女は人身売買の組織で助けて以降、俺に懐いてついて来ている。
「神封石を外そうとしていた」
「神封石?」
「俺の魔法を封印している枷だ。お前を閉じ込めていた籠の強力な物と言えば分かるだろう?」
「へー、これってそんな効果があるんだー」
リーンが興味深げに神封石を指先でちょんちょんとつつく。
愛らしい見た目に、少々抜けたオツムは保護欲を掻き立てられる。
恐らく組織の奴らは愛玩動物の様にこいつを捉えたのだろう。
ただ一つ疑問がある。
「リピは何故あいつらに捕まったんだ?」
妖精はこう見えて、かなり強力な種族だ。
フィジカルこそ脆いものの、彼女達は膨大な魔力を持って生まれ。
大賢者の俺程ではないとはいえ、その大半が魔法のエキスパートと聞く。
実際リピの保有する魔力量は相当な物だ。
少なくとも、先日俺が壊滅させた組織レベルで捕える事が出来るとは思えない。
「王子様に会わせてくれるって言ったの。それでついていったら、閉じ込められちゃって」
「……」
そんな台詞に騙されて、あんなガラの悪い奴らに付いて行って捕まったのか……
オツムが少々緩いと思っていたが、どうやら完全にアホレベルの様だ。
妖精自体がそうなのだろうか?
その時突然船が大きく揺れる。
此処は既に洋上だ。
今俺はオケアノス諸島に向かう船の中にいた。
「なんだ?」
「この船に別の船が近づいてるよ?」
妖精には好きな場所を自在にみる事ができる能力が備わっている。
それで外の様子を確認した様だ。
「洋上で別の船?」
恐らくは海賊船だろう。
面倒な事だ。
理想はこの船の船員が自力で何とかする事だが、駄目そうなら俺が出るしかないだろう。船を沈められては敵わんからな。
ドーンと大きく船が揺れ、上でドタバタと音が響く。
海賊船が接舷した音だろう。
「外の様子はどうだ?」
俺はリピに尋ねる。
冥界の瞳で確認する事も出来たが、あれは冥界の力を使う。
使わずに済むならそれに越した事はなかった。
「んーとね、この船の人達どんどんやられてちゃってるよ」
この船は正規の船便ではない。
裏稼業の人間に金を払って乗り込んでいる密航船だ。
その為乗組員の人間も全てそちら側の人間であり、そこそこ腕っぷしはあると期待したのだが……
「やれやれ、俺は上に行く。リピはここで待っていろ」
人から高い船賃をふんだくっておいて、全く使えない奴らだ。
俺は腰掛けていたベッドから立ち上がり、甲板へと向かう。
「あ、待ってよー。私も行くー」
俺の言葉を無視してリピが後を付いてくる。
上では切った張ったのやり取りをしているというのに、全くのんきな奴だ。
まあ転生を信仰している妖精は死を恐れないから、仕方のない事ではあるが。
甲板に上がると、船は既に制圧されていた。
接舷されてまだ5分と経っていないのに、本当に冗談抜きで使えない奴らだ。
「まだ居やがったか!」
海賊の一人が襲い掛かって来る。
俺はそいつの拳を受け止め、投げ飛ばす。
殺さなかったのは殺せば厄介になると思ったからだ。
海賊が俺を取り囲む。
否。
彼らは海賊ではない。
政府側の人間だ。
それが制服から判断できた。
この船の荒くれ者程度では話にならないわけだ。
オケアノス諸島は王家が分裂し、今は内紛状態にある。
その為政府機能が半分機能していないわけだが、別に政府が存在していないわけではない。
彼らはそのうちの一つ。
「革命軍か」
「ああ、そうだ。下郎」
俺の問いに一人の女が返事を返す。
年齢は20代半ば。
金の髪を後ろにまとめて束ね、紫の軍服を身にまとっていた。
胸にかけられた記章から、この女が高い身分を有していることが分かる。
恐らくリーダーなのだろう。
「違法薬物の密輸は重罪だ。お縄についてもらうよ!」
そう言うと女は腰に掛けたサーベルを引き抜き、俺に向けた。
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