17話 悪党どもには死を
「ぐげっ」
門兵の首を180度捻った。
すると変な声を出して動かなくなる。
「な、なんだ!?」
もう一人の門兵が突然の出来事に狼狽える。
首を捻って殺しただけでは透明化が解けないので、俺の姿が見えず何が起こったのか分からないのだろう。
俺は素早くもう一人の首も捻って始末する。
「この方法なら最後まで透明のままで行けそうだな」
門を潜り、中庭に居た奴らを殺して回る。
その次は裏口だ。
外が片付いたので
外にもう人はいない。
1階には使用人が4人――彼らは只の下働きである可能性が高いので、殺す必要は無いだろう。俺は素早く使用人達を気絶させる。
2階は全部で13人。
うち2人は召使いで、正面の大部屋には妖精が捕らわれている鳥籠がある。
ついでに妖精も助け出してやるとしよう。
音を立てない様、慎重に階段を登りきる。
部屋は全部で5つ。
正面の大部屋のほか、サイドに2部屋づつある。
まずは2人しかいない部屋の扉を開ける。
中の人間は、突然誰もいないのに扉が開いたことを不思議がった。
「ん?なんだぁ」
それがその男の最後の言葉だ。
俺は男の首を捻って地獄に落とす。
「ひぇっ――ぐぁっ……」
驚いた声を上げた女の首も素早くへし折り。
次の部屋を目指し、そこを終えると更に次の部屋へと移る。
順調過ぎる程順調だ。
誰も抵抗する間もなく死んでいく。
まあ訓練された兵士ならともかく、裏社会の人間程度では姿の見えない人間には対応できないだろう。
ブレイブ辺りなら、例え姿が見えなくとも俺を両断する事だろう。
だからこそ厄介だ。
奴がその程度で死んでくれればどれ程楽な事か。
「最後だな」
両サイドの4部屋を処理し、最後の大部屋を前にする。
その扉は分厚く大きい。
中には6人と妖精が一匹。
うち二人は使用人だ。
俺は扉を勢いよく開け放つ。
ここまで来たらもう音を気にする必要は無い。
逃げられる心配も無いだろう。
「なんだ?」
「誰だ!?」
男達が口々に叫び、腰の剣を引き抜く。
一番奥の男は魔弾を手にしている。
魔弾とは、魔力を弾としてを飛ばす武器だ。
たいした威力ではないが、矢や魔法詠唱無しに遠距離攻撃を仕掛ける事が出来る。
魔導師が咄嗟の護身用として身に着けている事も多い。
まあ俺はある程度の魔法は無詠唱で扱えたため、手にした事はないが。
狼狽える6人を順次処理していく。
勿論只の使用人は殺してはいない。
「あなたはだあれ?」
下ったらずな声が響く。
声は鳥籠からだ。
「私を助けに来てくれた王子様なの?」
中には可愛らしい姿をした妖精が閉じ込められている。
その姿は、ミニチュアの人間に羽が生えたような容貌をしている。
俺の方を向いている事から、どうやら彼女には俺が見えている様だ
「別に王子でも何でもないが、助けてやる」
籠に触れると火花が飛び散り、透明化が消える。
この籠は特別製で。
触れれば衝撃を発し、中にいる物の魔法を阻害する効果を持っている。
魔法を得意とする妖精が逃げられなかったのはそのせいだ。
俺は気にせず籠を掴んで壊した。
中から出てきた妖精は俺の顔の前でにっこりと微笑んだ。
「初めまして、王子様。私はリピって言います。幸せにしてくださいね、王子様」
どうやらこの妖精は、オツムが余り宜しくないらしい。
さっさと世界樹に帰る様言い放つと、俺は家探しを始める。
当然狙いは金品だ。
まあアナザービジョンで位置は把握しているので、家探しと言う程のものではないが。
「何をしてるの?」
「報酬を頂いているだけだ。お前はさっさと帰るがいい」
だが妖精は、俺の言葉など無視して俺の周りをひらひらと飛び回る。
こいつの狙いが今一つ分からん。
まさか本気で俺が王子でだとでも思っているのだろうか?
「よし、十分だな」
結構な数の宝石類を、部屋に置いてあった皮袋にしまい込む。
これを換金すれば、慎ましやかなら人生10回分ぐらいは賄える額になる。
これだけあれば、余程の事がない限り資金に困る事は無いだろう。
「ついでに魔銃も貰っていくか」
男の遺体から奪い取り手に取る。
試しに一発撃ってみる。
バァンと言う破裂音が響き――魔銃が爆発する。
どうやら少し魔力を籠め過ぎた様だ。
「この程度で壊れる様では、まるで使い物にならんな」
遠距離手段はあった方がいいが、あまり威力が低すぎては意味がない。
これなら道で石を拾い、礫にでもした方がましだろう。
俺は残骸を放り捨て、さっさと屋敷を後にした。
「まって~」
妖精がふわふわと必死について来る。
どうやら本気で付いてくる気だ。
ひょっとして一人では世界樹に帰れないのだろうか。
「世界樹に帰れないのか?」
尋ねると妖精は満面の笑顔で答える。
「あなたが檻を壊してくれたから、転移魔法でいつでも帰れるよ」
「だったらさっさと帰れ」
人間に捕まったのに、またどこの誰ともわからん人間について来るとは。
妖精の神経が信じられん。
「えー、やだー。リピ王子様と一緒にいるぅ」
「俺は王子様じゃない。それどころか悪党だ。人を殺して金品を奪う所をお前も見ていただろう」
自分の行動が純粋な善だとは、口が裂けても言えないだろう。
悪人とはいえ、相手を容赦なく殺し。
その金品を奪っているのだ。
やっている事は強盗と何ら変わらない。
俺は
現に俺は世界の事よりも復讐を優先し、魔王とすら契約している。
俺は紛う事なく悪だ。
「王子様は凄く優しいよ。悪い人達の罪を終わらせてあげて、次の人生を与えてあげたんだから」
次の人生を与えて挙げた……か。
どうやら妖精は転生信仰を持っている様だ。
正直、転生などという考えは馬鹿馬鹿しいとしか思えない。
「そうか。だが俺は優しさでやったわけじゃない。ムカついたから殺しただけだ。お前も痛い目を見たくなかったらさっさと失せろ」
だからと言って、一々他者の信仰をこき下ろす程野暮でもない。
俺はしっしと手を振って妖精を追い払う。
「王子さまは優しいよ。だって私と同じように捕まってた子達を、助けてあげてたじゃない」
!?
こいつは籠に閉じられ、魔法も封じられていた。
俺の行動をどうやって把握したと言うのか?
「お前何故俺の行動を知っている」
「貴方が建物に入って来た時から、リピずっと見てたよ」
「見ていた?」
どうやって?
何か特殊な力でも持っているのだろうか。
「妖精はね!いつでも好きな所を見る事が出来るの!凄いでしょ」
妖精が踏ん反り返るかの様に胸を張る。
全てを見通す眼か。
「生命力や魔力の感知も出来るのか?」
「ん?感知?リピの目は見るだけだよ?」
完全に上位互換と言う訳ではなさそうだが、本当にどこでも臨んだ場所が見れるならとてつもない価値のある能力だ。
俺の復讐の役に立つ事は間違いない。
が、流石に無垢な妖精を騙して利用するつもりはない。
彼女にはお引き取り願おう。
「十秒以内に失せろ。でなければ殺す」
殺気を放つ。
強い殺意を籠めた殺気を。
「良いよ。王子様がそうしたいんなら、私の命を上げる」
だが彼女はたじろぎ一つせず、笑顔で答える。
その顔に恐怖の影はまるで差していない。
心からの笑顔だ。
そう言えば彼女は転生信仰の持ち主だったな。
殺すは脅しにならないか……俺は小さく溜息をついた。
「俺と行動を共にするのは、危険そのものだ。それでも構わないなら好きにしろ」
そう言って俺は歩き出す。
「王子様とずっと一緒!」
そう叫ぶと、彼女は俺の肩に捕まる。
付いて来るというのなら、存分に利用させて貰う。
まあ利用できる間は守ってやるさ。
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