11話 見知らぬ森

不気味な森だ。

王都周辺にこんな森がある事を、俺は今まで知りもしなかった。


兵士から情報を聞き出した俺は、それを元にみごと監獄から脱出する事に成功する。

だが、これではれて自由の身という訳には行かない。

当然脱獄は直ぐに知れ、俺に対する追手が差し向けられる事だろう。


正直、脱獄よりもここからが本番と言ってもいい。

上手く身を隠さなければ。

魔力での身体強化があるとはいえ、今の俺の実力ではかつての仲間達の足元にも及ばない。

居場所がばれて勇者辺りが送られてくれば、その時点でゲームオーバーだ。

兎に角見つからない様、慎重に行動しなければ……


俺は現在、王都の西を目指していた。

目指す先はオキアネス諸島だ。


オキアネス諸島は連合に所属しておらず。

治安の悪い半無政府状態だと聞く。

木を隠すには森とはよく言ったもの。

今や極悪犯罪者として扱われる俺が身を隠すには、もってこいの場所だ。


しかし静かだ。

人目が付かない様街道を避け、王都の西にある森を抜けている最中なのだが、虫の鳴き声一つしない。

まるで森全体が死んでしまっているかのような静けさだ。


「ふ、馬鹿馬鹿しい」


俺は自分の馬鹿げた鼻で笑う。


脱獄したて。

周りは全て敵。

そんな状態で俺はナーバスになっているだけだ。

森そのものが死んでいるなどあり得ない。


俺は首を振って余計な考えを頭から追い出し、月明りも差し込まない森の中を進む。

暫く進むと、突然背筋に寒気が走った。

緊張から心拍数が跳ね上がる。


理由はまるで分からない。

それはまるで本能に語り掛けてくるような、漠然とした不安。

だがそれを根拠のない只のナーバスだと割り切り、俺は歩みを進める。


「っ!これは!?」


藪を抜けた先は、月明りの差し込む開けた場所だった。

その中心部分に、闇が靄の様に漂っていた。

まるでそれは地獄の入り口の様に感じる。


「なんなん!だこれは!」


思わず声を荒げる。

こんな現象を見るのは初めての事だ。

胸が早鐘を打ち、本能が逃げろと悲鳴を上げる。

だが俺はその本能に逆らって、足を一歩前に踏み出した。


一歩、もう一歩と足を踏み出す。

声が聞こえたのだ。

その声は俺にこう囁いた。


「力が欲しくはないか?」と。

ただ生きるだけなら、俺は自らの生存本能に従い遠ざかるべきだろう。

だが俺は前に進む。


力が欲しい。

奴らを倒す為の大きな力が。


牢獄で肉体を鍛え続けた訓練の3年。

肉体は大きく変化し、それを魔力で強化する事で俺は強くなった。

このまま死に物狂いで訓練を続ければ、いつかブレイブ以外に復讐する事なら可能だろう。

だが、俺が例え一生かけて努力しても……恐らくブレイブには届かない。


直ぐ目と鼻の先に暗闇が広がっている。

全身に怖気が走り、肌が泡立つ。


正直リスクはとんでもなく高いと言える。

だが、ブレイブへの復讐を諦めるぐらいなら初めから脱獄などしてはいない。


俺は――俺は復讐に命を賭ける。


覚悟を決めた俺は地を蹴り、闇へと飛び込んだ。

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