10話 脱出

「なにもっ――」


兵士が声を上げきる前に、腹部に一発入れて黙らせる。

出入り口の扉を睨み、息を殺して警戒する。

だが動きはない。

どうやら気付かれずに済んだ様だ。


「ふぅ、ぼんくらで助かったぜ」


俺が転移先は小部屋で、そこには一人の兵士が待ち構えていた。

それが今倒した兵士だ。

恐らく魔法陣を見張っていたのだろう。


俺は扉に耳を付け、外の様子を伺う。

特に物音はしない。

ゆっくりと扉を開けて隙間から外を覗く。


通路には等間隔に松明が設置しており、遠くまで見通す事が出来た。

左右の突き当りには扉があって、そこに到るまでの通路にも扉がいくつか並んである。

兵士の姿は見えない。


さて、どうしたものか。

監獄ではほぼ一本道だったため迷う事は無かったが、ここは扉が多すぎて道が全く分からない。

だからと言って、流石に一つ一つ開けて確認するのはリスクが高すぎるだろう。

順当に考えれば、左右の突き当りの扉が正解なのだろうが……

兵士を起こして聞こうかとも思ったが、大声等で騒がれては面倒な事に成る。


暫く逡巡した後、取り敢えず戻る事にした。

それが一番無難だ。


転移陣はこちら側にもある。

それを使えば元の場所に戻れるだろう。

だがその為には……


俺は倒れている兵士に近づき、身体検査を行う。


「あった」


魔石を手にした俺は兵士をを抱え、転移陣を発動させて移動する。

兵士を連れて行くのは、転移先なら少々騒がれても問題ないからだ。

向こうなら心置きなく尋問おしゃべり出来る。


「おい、起きろ」


転移した小部屋で兵士の頬を軽く叩いて声をかける。

だが反応しない。

暫く続けたが駄目な様だ。


もっと力を籠めても良いが、あんまりやり過ぎると頬骨が砕けかねん。

仕方ないので看守長のいた詰所まで戻る。

そこでテーブルに置いてある葡萄酒の瓶を手に取った。

振るとちゃぷんちゃぷんと音を立てる。


「これだけあれば十分か」


小部屋に戻り、男の上半身を抱き起す。

そしてその口に栓を抜いた葡萄酒の瓶を突っ込み、一気に傾けた。

どくどくと葡萄酒が男の喉へと注がれる。


んが……ぐぇっぷと男の口から変な音が漏れだす。

だが俺はそんな物全く意に介さず、そのまま男の口を押えて酒を流し込んだ。


「ぼぉえっ……びゅふっ……げぇはげほ……」


酒瓶が空になった所で男が盛大に酒を吐き出し、蒸せて藻掻く。

どうやら意識が戻った様だ。

俺はゲホゲホ咳き込んでいる男が落ち着くのを待って、声をかけた。


「ここからはどうやって脱出すればいい?」


「はぁ……はぇ?あ、ききき貴様はガルガーノ!誰か!脱獄だ!」


兵士は大声で俺の存在を喚く。

だが残念ながら、こちら側はもう制圧済みだ。

騒いでも誰も駆けつけてはこない。


兵士は暫く叫んでいたが、誰も来ない事に焦って小部屋の扉を開く。

転移先と転移前では作りが全く同じなので、転移した事に気づかず増援を呼びに行ったのだろう。

だが扉を開けた瞬間、その動きが止まる。


「な……」


「無駄だ。これ以上騒げば殺す」


勿論殺す気など無い。

だが、奴から見れば俺は世界を滅ぼそうとした凶悪犯だ。

その俺に耳元で殺すと囁かれれば、生きた心地はしないだろう。


「ひぃぃ……た、たすけて」


兵士は恐怖からその場に尻もちを付き、わたわたと手と足を動かし俺から距離を置こうとする。

俺はそんな兵士の行動をあざ笑うかのように大股で歩き、追い詰める。


「た、たしゅけて……」


涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。

よく見ると失禁までしている。

少し驚かしすぎたかもしれない。

だがそれ位の方が話はスムーズに進むだろう。


「お前の居た部屋から外に出る道を教えろ。そうすれば命だけは助けてやる。だが答えないと言うのならば……」


俺は兵士を見下ろし酷薄に笑う。

そんな俺を見て、兵士は小さく悲鳴を上げてから脱出方法を必死に語り出した。

いい感じだ。


「感謝する」


兵士からの情報を聞き終えた俺は、一言礼を言ってから彼に充て身を喰らわせ、再度気絶させる。


さあ、道は分かった。

後は脱出するだけだ。

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