7話 脱獄

俺は出来るだけ音がならない様、繊細な魔力と筋力のコントロールで格子の隙間を広げた。

看守に見つかっても、彼らを倒す事等今の俺のパワーなら造作もない事ではある。

だが彼らはまじめに与えられた仕事をしているだけに過ぎない。


いくら復讐のためとはいえ、彼らを殺したり大怪我を負わせるような真似は避けたい所だ。

勿論、必要ならばその拳を迷わず振るうつもりではあるが……


「よし」


格子の隙間を人が通れるくらいまで広げきる。

隙間から首を出し、辺りを確認するが看守の姿は見当たらない。

俺は隙間から通路へと音もなく躍り出て、慎重に通路の奥にある階段へと向かった。


階段へと辿り着いた俺はこっそりと階段を覗き込む。

階段には松明が付けられていない為真っ暗だが、姿勢を低くして上の方を覗くと小さな明かりが見えた。

看守の手にした松明かも知れないので、暫く眺めて確認する。

だが光が動く様子はない。


「大丈夫そうだな」


俺は足音を殺し、慎重に階段を上がって行く。

昇り切った先は小部屋になっており、覗き込むと椅子に座る看守の姿が目に入る。


「こりゃついてるな」


看守は椅子に座ったまま、うたた寝していた。

俺は素早く寝ている看守に近づいた。

そして机に置いてある看守の帽子を素早く奪って引き千切り、ひも状にして猿轡代わりに看守の顔に結び付ける。

これで声は出せないだろう。


そんな事をされれば当然看守は目を覚ますが、ボディーブローを一発かまして黙らせた。


「ふ、峰打ちだ」


冗談のつもりだったが、言ってから何を言ってるんだ俺はという気分になる。

脱獄に気分が高揚し、ハイになっているのかもしれない。

落ち着いて慎重に進めなくては駄目だ。

少し気を付け様。


俺は看守の上着を脱がし、それを紐代わりに看守の両手と体を椅子に縛り付けた。


「鍵を頂くとしよう」


ベルトを引き千切り、そこに掛けられていた鍵束を手に入れる。

これが無いと一々ドアを蹴破らなければならない――そんな事をしたら音で他の看守達が大挙してくるかもしれない――ので、脱出における必須アイテムと言えた。


詰所の明かりを消し、扉を開いて外の様子を伺う。

そのまま開けると隙間から通路に光が漏れてしまうからだ。


「誰も居ないな」


ここは極悪人の収監されている刑務所だ。

もっと警備は厳重かと思っていたのだが、魔法さえ封じれば大したことが無いと高を括っていたのだろう。

警備はかなりざると言わざるを得ない。

お陰で手間が少なくて助かる。


真っ暗闇の通路を、俺は音をたてずに進んだ。

暫く進むと、松明の光が目に入る。

警備は見えないが、あそこが次のチェックポイントである可能性は高い。

俺はゆっくりと明かりへと近づいた。

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